流行性耳下腺炎(通称:おたふくかぜ)
流行性耳下腺炎
おたふくかぜ)はムンプスウイルス(RNA virus)によって起こる耳下腺や顎下腺など唾液腺の感染症です。3歳から6歳くらいに好発する疾患で潜伏期間は2 - 3週間です。飛沫感染で広がり、冬から春にかけてよく見られますが最近は夏にもみられることがあります。
(1)症状
 発熱(無熱のこともある)と耳下腺の腫脹で始まることが多く、腫脹は片側あるいは両側(一方ずつ腫れてきて両側となることもある)にみられます。圧痛をがありますが細菌性耳下腺炎のように発赤を伴うことはありません。酸っぱいものを食べたり、物を噛んだりあるいは話すときなどに痛みが増すことがあり、特徴の一つです。唾液腺は耳下腺以外に顎下腺や舌下腺が腫れることもあります。幼児・学童は比較的軽症ですが思春期以後は重篤で合併症を伴いやすいので要注意です。通常は予後良好で自然治癒します。合併症として、髄膜炎、脳炎、精巣炎精巣上体炎、卵巣炎、膵炎、難聴、腎炎、心筋炎、甲状腺炎などがあります。髄膜炎・脳炎は小児に多い合併症で発症するのは10%程度ですが、予後は良好で治癒するものが大部分です。精巣炎・精巣上体炎は思春期以降の年長男児や成人男性の15 - 35%にみられ不妊症の原因の一つになりますが、両側性は少なく完全な不妊症は稀です。卵巣炎の頻度ははまれです(思春期以後で数%)。膵炎の頻度は比較的多くみられますが軽症のことが多い。難聴は通常片側性(時に両側性)の感音性難聴(蝸牛前庭神経障害)で頻度はかなり低いのですが難治性です。なお、胎児感染による奇形の発生は確認されていません。
(2)診断
 診断は圧痛を伴う唾液腺の腫脹などの臨床症状が特徴ですので難しくはありません。周囲にこの病気に罹った人がいて2 - 3週間前に接しているなども考慮します。他の原因による耳下腺炎との鑑別や不顕性感染の把握には血清抗体価の測定(HI抗体もしくは酵素抗体法による急性期IgM・慢性期IgG抗体)および唾液、髄液、血液、尿、便、乳汁などからのウイルス分離が有用です。特に、髄膜炎・脳炎が疑われる場合は髄液検査やMRIを行います。唾液中にはウイルスは約1週間くらい前から発病9日くらいまで見られます、感染性は耳下腺腫脹開始前後がピークとなります。唾液腺疾患は血清・尿中アミラーゼ値の上昇も参考となりますが膵炎などとの鑑別が必要です。症状の出ない不顕性感染を30 - 40%に認めますが、通常は一度罹ると免疫は長く持続し成人では80 - 90%の方に抗体を認めます。
鑑別疾患として、耳下腺腫脹例では反復性耳下腺炎を、顎下腺腫脹例では顎下部のリンパ節腫脹があります。抗体検査や超音波検査で診断可能です。
(3)治療
A.対症療法
 このウイルスに特異的な治療法はなく対症療法すなわち高熱に伴う脱水症に対する輸液療法、鎮痛・解熱薬の投与などの対症療法が中心となります。腫脹疼痛部位に対する湿布は楽になるなら行います。合併症に対しては合併症そのものの治療を行いますのでその場合にかかりつけ医と相談して下さい。
B.予防
 弱毒生ワクチンの接種が最も有効な予防手段で、生後1歳以上の小児(就学前が望ましい)および成人に接種しますが任意となっています。ワクチンの抗体陽性率は麻疹・風疹ワクチンに比べて低く90 - 95%くらいです。海外渡航時、特に米国の場合は予防接種済み証明書が必要となりますので、年長児・成人には既往歴がなければ任意でワクチン接種が行われます。
 第2種伝染病(結核を除く)指定で、登校・登園は耳下腺の腫脹が消失するまで欠席とすることが必要ですが、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときはこの限りではありません。


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