マイコプラズマ肺炎(Mycoplasma Pneumonia)
細菌とウイルスの中間の大きさで核をもつ微生物としては最も小さいMycoplasma pneumoniaeによる感染症で、上気道炎・急性気管支炎のうちは軽症なので一般のかぜ症候群とほぼ同様の対応・処置で構いません。問題となるのはマイコプラズマ肺炎です。小児(4歳以下は軽症のことが多い)や学童・若年成人に多く発症し、健康な小児(5 - 12歳)や若年成人に下記に示すような症状が続くときはマイコプラズマ肺炎を強く疑います。市中肺炎の原因細菌としては肺炎球菌が最も多く、次いでインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは違います)やマイコプラズマがあります。季節的には初秋から冬に多く見られる傾向がありますが、最近は季節感が無くなってきているためか春から夏にかけてもみられるようになっています。4年(3‐5年)周期の流行(オリンピックの年)が特徴的といわれていますが(その間の2年毎の小周期もみられることがあります)、近年、4年周期の流行という特徴は崩れてきているようです。この疾患はインフルエンザおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、風疹などのように咳やくしゃみ等による飛沫感染によって家族や学校などの人の集まる場所で流行します。
(1)症状
2 - 3週
の潜伏期をおいて症状が出現します。痰がからまったような湿性の咳とは違った乾性咳嗽(ほぼ100%)と全身症状としての発熱(38度以上の発熱は50%以上にみられる)が主な症状です。粘液性の痰が見られることもありますが、一般的なかぜ症候群と違って咽頭痛や鼻汁などはあまり多くありません。特に夜間に増悪する頑固な咳が長く続くのが特徴的です。頻度は高くありませんが呼吸器症状以外にも発疹や紅斑などの皮膚病変、肝機能障害、胸痛や不整脈・心筋炎などの循環器症状、髄膜炎・脳炎やギラン・バレー症候群など中枢および末梢神経、鼓膜炎などがみられることがあり、重症肺炎例では多量の胸水とともに呼吸困難がみられることもあります。
(2)診断
検査所見では白血球は正常範囲あるいは軽度増加(15,000を超えない)、CRP陽性、血沈亢進、一過性にGOT・GPTの上昇、寒冷凝集反応陽性(特異的ではなく補助的診断法)などがみられます。抗体検査では、急性期に1回測定し2 - 4週後再度測定するペア血清で4倍以上の上昇、あるいは単独のCF法では80倍以上の上昇を陽性と診断します。また、DNA検出(PCR法)や喀痰・咽頭ぬぐい液からの菌の分離・培養(PPLO培地)による証明でも診断できます。
マイコプラズマ肺炎に特徴的な胸部X線像はありませんが、すりガラス状の肺胞性あるいは間質性陰影が散在して(skip lesion)みられます。CT検査では気管支壁の肥厚と散在する斑状影(skip lesion)が見られ他の肺炎との鑑別に役立ちます。
(3)治療
A.対症療法
咳が強いため鎮咳薬や去痰薬、発熱に対して解熱鎮痛薬を必要に応じて使います。発熱などで脱水が見られる場合(特に小児)は水分補給が必要で、経口的に摂取できないようなときは補液(点滴)を行います。また、急性呼吸不全を伴う重症例や髄膜炎・脳炎を併発するような場合はステロイドを用いることがあります。
B.基本的治療
マイコプラズマは細胞壁を持っていないため細胞壁合成阻害薬であるペニシリン系やセフェム系などのβラクタム系抗生物質は効果が無く、蛋白合成阻害薬であるマクロライド系やミノマイシン系、あるいは核酸合成阻害薬であるフルオロキノロン系薬が効果的です(マクロライド系抗生剤はワーファリン、テグレトール、アセナリン、トリルダンなどとの併用は要注意)。
肺炎という重症の印象のある疾患名ですが一般的に予後は良好であり、10 - 14日間の抗生剤使用で呼吸器症状は改善しますし自然治癒することもあります。治療を行っていれば胸部X線上の所見は平均4週(1 - 16週)で消失します。
(4)予防
インフルエンザ同様に飛沫感染するため家族内や学校や職場などの集団内での感染率は高くなります。家族内にマイコプラズマ肺炎の感染者がいても、感染予防のための「予防内服は」、一部に感染率低下に効果的との報告はありますが家族内に慢性呼吸不全や重症の気管支ぜん息の方がいる場合を除いて通常は行われません。

学校保健法における取り扱い
登校・登園は急性期が過ぎて本人の全身状態が改善すれば可能です。学校での流行は第3種学校伝染病として出席停止などの措置がとられる場合があります。


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