発熱とともに嘔吐・下痢をきたす感染性疾患
1.腸管系アデノウイルス感染症
人に感染するアデノウイルス(DNAウイルスの一種)は30以上の血清型に分かれており、感染すると高い熱を伴う咽頭炎・喉頭炎等の上気道炎、結膜炎、胃腸炎(腹痛・嘔吐・下痢など)などを引き起こします。幼児に好発するアデノウイルス3型の感染は夏場のプール熱としてよく知られています。重症化し肺炎等に移行する危険性の高いアデノウイルス7型もあり注意が必要です。乳幼児の嘔吐・下痢の原因としてはロタウイルス(下記)がありますが、アデノウイルスも同様の症状を来してきます。
高熱が続いても比較的症状は軽いことが多く対症療法で大丈夫ですが、下痢・嘔吐で脱水がみられる場合は補液と安静が必要です。また、咳が多く出る場合は上記の7型アデノウイルス感染の場合があり胸部X線検査など必要となります。
2.小型球形ウイルス(SRSV)感染症
カリシウイルス、ノルウォーク因子(ノロと呼ばれています、食中毒型・札幌ウイルス)、アストロウイルスなど小型球形ウイルスによる感染でも発熱・嘔吐・下痢を起こします。乳幼児の胃腸炎ではロタウイルスに次いで多くみられますが、大体通年でみられる感染症ですが11月から3月にかけて多くみられる傾向があります。全年齢層にみられ、年長児から成人の感染性胃腸炎の中では検出頻度のもっとも高いウイルスで、終生免疫を得ることはなく何度でも感染することがあります。汚染された食品や水、特に生カキが感染源となることが多いようですが、食品を介さず人から人への感染も主要感染経路となります。ウイルスは1週間は糞便中に排出され感染源となり得ます。このウイルスは食品中では増殖せず低温の環境ではむしろ長期間安定しているのが特徴です。重症化して入院に至ることもあるウイルス性腸炎ですが、夏場は細菌性腸炎との鑑別が必要です。
腸性アデノウイルス感染症同様、治療の基本は対症療法と脱水の治療(予防)です。制吐剤は症状に応じて使いますが、基本的には止瀉剤は使わず整腸剤等で経過をみます。脱水に対しては補液(点滴)を行い、ある程度症状が改善したら経口で電解質の入った水分を補給するようにします。
次のロタウイルスも同様ですが、人から人への経口感染があり得るためその予防も大切で、充分に手洗いを励行することが重要です。
3.ロタウイルス感染症
乳幼児下痢の原因の多くはウイルス性で、上記のウイルスもありますが冬から春先にかけてはロタウイルス感染症が多くみられます。
治療は上記のウイルス感染症同様対症療法で、脱水症の予防と治療が基本です。
4.その他のウイルス感染症
コクサッキーウイルスA・B(手足口病の原因となるウイルスとしてよく知られています)やエコーウイルスなどのエンテロウイルス群も原因の一つで、症状や治療法等は他のウイルス性腸炎と同様です。
5.細菌性腸炎
急性下痢、嘔吐、腹痛、発熱の原因はウイルス感染のみではなく、いわゆる食べ過ぎや冷たいものの摂りすぎ(この場合は水様性下痢が多い)、コーヒー(カフェインレスもあまり差がないとの報告があります)・アルコールの飲みすぎ(腸管通過時間を短縮する)、ソルビトールの摂りすぎ(ダイエット食品・シュガーレスガムなど)、また食物アレルギー、薬剤性(抗生物質・抗高脂血症薬・胆石融解剤・抗尿酸血症薬など)、乳糖不耐症、過敏性腸管症候群(心因性下痢)、虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、稀に心筋梗塞などがありますが大部分は感染性腸炎です。ウイルス性腸炎以外の感染症としては原虫などの寄生虫疾患もありますが(海外から帰国した後などの場合)、細菌感染(食中毒)によるものが多くみられます。起炎菌や症状などの詳しい説明は細菌性腸炎(食中毒)のページに載せています。

冬場に流行するインフルエンザにはよく効く抗ウイルス薬がありますが(それも早く診断して服用しないと効果が期待できません)、上記に示したウイルス性感染症には特に特効薬はなく、からだを充分休めて体力や免疫力を保持することと水分を摂って脱水を予防すること(脱水に至った場合は点滴が必要かつ効果的)、できれば症状に応じて栄養を補給することが一番の治療となります。仕事や学校など無理して続けていると逆に治癒を遅らせだらだらと症状が長引いてしまいます。経過中に細菌感染を合併してくる場合もあり診断・治療は早いほど良いので、早めにかかりつけ医で診察を受けるようにしましょう。

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