かぜ症候群
鼻腔・咽頭・喉頭・扁桃など上気道の急性炎症をきたしてくる疾患群の総称で、一般的には「かぜ」と言っていますが、その中には鼻炎扁桃炎咽頭炎喉頭炎(クループ)咽喉頭炎などが含まれます。従って、基本的には同じ疾患群ですインフルエンザ副鼻腔炎かぜに総括されてしまうこともあります。例えば、内科、小児科、耳鼻科など診てもらった医療機関でそれぞれ違う病名として説明されているかもしれませんが基本的には同じ症候群と考えて下さい(治療方法や治療にかかる期間は違うことがあります)。

症状
症状は、鼻汁鼻閉クシャミ咽頭痛咽頭乾燥感嗄声<声がれ>・嚥下痛)、頭痛発熱全身倦怠感筋肉痛関節痛、時に消化器症状吐気嘔吐下痢腹痛など)を伴うこともあります。この中でインフルエンザは特に症状が急性に強く現れます。上気道から下気道(気管・気管支・肺)にまで拡がると湿性の咳、色調の濃い痰(黄色-緑色)、喘鳴などを伴うようになるなります。そうなると気管支炎や肺炎として対応していかなければなりません。「風邪をこじらせて肺炎になった」と時々耳にしますので早いうちに対応が必要です通常は1週間以内に症状が改善することが多いのですが、咳喘息(= 喘息様気管支炎あるいはアレルギー性気管支炎:咳が何週も持続するが呼吸困難はない)やアレルギー性鼻炎(花粉症)、A型肝炎などの初期症状は「かぜ」と似ていますのでかかりつけ医で診察を受けるようにして下さい。

          

原因
原因は
稀に塞冷やアレルギーなどの非感染性因子によることもありますが大部分は呼吸器ウイルス感染症で、ライノウイルスRSウイルスインフルエンザウイルスパラインフルエンザウイルスコロナウイルスアデノウイルスエコーウイルス、コクサッキーウイルスなどがあります.消化器症状をきたしてくるもの小型球形ウイルス(SRSV)や小児でのロタウイルスがあります。一般的に「かぜ」といわれる場合は成人ではライノウイルス、小児ではRSウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルスが比較的多くみられます。冬から春先にかけてインフルエンザウイルス(症状が急激で強い)、ライノウイルス(鼻炎症状が目立つ)、RSウイルス(鼻炎症状が多い)、パラインフルエンザウイルスが多くみられ、夏はアデノウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスが多くみられます(夏かぜ)。感染ウイルスの種類によって侵される呼吸器の部位にある程度の特徴はありますが、臨床症状からの感染ウイルスの特定は困難でウイルスを特定するには咽頭や鼻汁などからウイルスを分離、遺伝子診断(PCR法)あるいは血中抗体価測定などの免疫血清学的診断法を行う必要があります。しかし、通常の日常診療においてはインフルエンザやアデノウイルスなど特定のものを除いてウイルス同定の必要性は少ないので詳細はかかりつけ医に相談してみて下さい。乳幼児のRSウイルス感染症は細気管支炎を併発して重症化する危険性があるので注意が必要です。
一方、細菌性の扁桃炎・咽喉頭炎ではA群溶血性連鎖球菌感染症(溶連菌感染)が重要で、これも白血球数や凝集反応による迅速検査で診断できます(当クリニックでも実施可)。その他の細菌感染は黄色ブドウ球菌やインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別)がありますが臨床症状や血液検査などで診断して治療には抗生物質を使います。

治療
通常は室内の保温・保湿、安静、水分補給・栄養価の高い食事などが原則で、過労を避け十分に睡眠をとるように心掛けましょう。特に高齢者や糖尿病・心臓病などの基礎疾患のある場合には努めて安静をとることが重要です。また、現在みられる臨床症状に応じて対症療法を行います。ウイルス感染によるかぜ症候群は、大部分1週間以内に改善します。高齢者や基礎疾患のある場合の重症化や、加えて小児・免疫不全症疾患を有する方々の発症は細菌感染を併発することがあるので抗生剤の投与を行います。1週間以上経ってもなかなか症状が改善しないなど症状が強く二次性細菌感染が疑われた場合白血球数CRP(炎症反応)、GOT・GPT等の血液検査、胸部X線検査なども行います。
インフルエンザが疑われたら迅速診断キットで感染の有無を確認し(当クリニックで実施可)、陽性なら抗インフルエンザ薬を服用します(発症48時間以内に開始すると有効といわれていますが遅れると効き目が無いということではありません)。治療薬で、インフルエンザの場合は鎮痛解熱薬にアセトアミノフェン(商品名:カロナール、アンヒバ座薬など)を選択するのが無難です。喘息の治療を行っている方々の6-7%には非ステロイド消炎鎮痛薬で致死的な発作を誘発する(アスピリン喘息)おそれがあるので非ステロイド消炎鎮痛薬は使わないほうが安全です。

治療中経過をみて症状が改善しないときは合併症や他疾患も疑われるので上記の検査を行います。このような場合はかかりつけ医を受診するようにしましょう
ウイルス性のかぜ症候群はうがいと手洗いが予防の重要な基本です!   
カゼの増悪と下気道疾患への進展
上気道炎の治癒が遷延したり症状が増悪する場合は下気道(気管支・肺)へ病変が進展している場合があり、一般にかぜと言われていても重症化して気管支炎、細気管支炎、肺炎を合併することもあります。
1.急性気管支炎
気管支を罹患部位とする急性の下気道炎で、急性上気道炎すなわちカゼ症候群に続発して発症することが多い疾患です。症状は発熱、咳嗽、喀痰(色調が黄色-緑色と濃くなることがあります)、喘鳴などの呼吸器刺激症状で聴診上湿性ラ音を聴取します。胸部X線フィルム上は肺炎のように浸潤陰影は見られず、専門的になりますが気管支壁が肥厚するBronchial cuffを認めるものが気管支炎です。
原因微生物は90%以上がインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルスなどですが、肺炎球菌インフルエンザ菌、モラキセラ・カタラリスなどの細菌性のものがあり、特に咳嗽が強く見られ肺炎の原因となるマイコプラズマクラミジアなどもあります。
治療については、ウイルス性の場合には基本的には上気道炎と同様対症療法が主体となりますが、症状に応じて鎮咳去痰薬・気管支拡張薬・鎮痛解熱薬などを用います。早めに内科や呼吸器科などを受診するようにしましょう。
細菌性気管支炎では、血白血球数やCRPなどを参考にして抗生剤や抗菌剤を使います。
その他は基本的に上気道炎と同じで、安静を保ち水分の補給および環境の保温・加湿に注意します。
2.喘息様気管支炎(アレルギー性気管支炎):CVA(Cough Variant Asthma)
基本的には喘鳴を伴う気管支炎であり低年齢の乳児に多くみられます(成人の場合、アレルギー性気管支炎と呼ぶことがあります)。正確には疾患名ではなく病態を示しており、広い意味では気管内分泌物貯留、気管支炎、細気管支炎、気管支喘息での感染合併なども含まれます。
原因は急性気管支炎と同様で、治療も基本的には急性気管支炎と同じです。
3.肺炎
外来でみる肺炎は市中肺炎と呼ばれ病院内環境以外で発症した肺炎のことで院内肺炎とは区別しています。市中肺炎は、肺炎球菌やインフルエンザ菌などによる細菌性肺炎とマイコプラズマやクラミジアなどの非定型肺炎を区別する必要があります。細菌性肺炎の治療に関しては、治療薬(抗生物質)選択に際して、65歳以上、過去3か月以内のβ−ラクタム系薬使用歴、アルコール依存の有無、免疫低下疾患、複数の合併症の存在、保育園や幼稚園に通う幼児との接触などがあればペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP:penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae)感染の可能性があるので注意が必要です。

小児のかぜ症候群
かぜ症候群は小児の日常診療において最も頻度の多い疾患でありそのほとんどはウイルスが原因です。主な症状は発熱・鼻汁・咳嗽・食欲低下・不活発などで、基本的には成人のかぜ症候群と同じです。機嫌が悪くミルクを飲まないなどかぜとは思わないような症状で来院してから発熱に気づくこともあります。他の感染症と同様(手足口病水痘症溶連菌感染症伝染性紅斑など)、特に保育所や幼稚園、学校に通っている場合は感染の機会が多くなりがちです。特に、乳幼児のRSウイルス感染症は年によっては広く流行することもあり重症化の危険性があるため要注意です。
乳幼児は発熱が続いたり嘔吐・下痢などの消化器症状があると脱水症にかかりやすく体力低下をきたしてきます。そのため年齢に応じた水分補給や食事の注意が必要で、来院する前に熱を記録したり飲水量や尿回数も記録して受診されると診断や治療に有用な情報となります。高熱、嘔吐・下痢があって脱水症となり水分補給が経口でできない場合は点滴治療が必要です。

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