特殊栄養成分による生活習慣病の予防

栄養・食品成分・微量元素と色々な疾患について、久留米大学小児外科の田中芳明先生の研究からこれまでn-3系不飽和脂肪酸食物線維微量元素について分かりやすく紹介してきましたが、今回はこれらの内容を補足し加えて抗酸化物(CoQ10:Coenzyme Q10)についてお話します(第18回日本静脈経腸栄養学会からの抜粋・要約を追加)。

微量元素・抗酸化物と活性酸素・フリーラジカル
最近増えつつある生活習慣病をからだの「サビ」と考えた場合、からだの機能をさびさせることを改善させる作用を有するのが特殊栄養成分(微量元素・CoQ10等の抗酸化物・食物線維・n-3系不飽和脂肪酸等)と考えられます。
さびさせる原因の主役を演じるのは活性酸素やフリーラジカルです。これらは体内で過剰に産生されて色々な疾患の大きな原因の一つになっているということが分かっています。例えば、脳:アルツハイマー病パーキンソン病、目:白内障、肺:肺気腫ARDS、心臓:心筋梗塞(アテローム性)、免疫代謝系:糖尿病慢性関節リューマチ膠原病など、その他:肝炎潰瘍性大腸炎男性不妊等々、さらに発癌性などへの関与があります。この活性酸素を消去するメカニズムの一つとしてヒトの体にはSOD(superoxide dismutase)という酵素があって、この酵素の生成や活性に微量元素である亜鉛、マンガン、銅、クロムなどが重要となります。これら微量元素は加齢によって活性が低下し、生活習慣病を引き起こしやすい状況になります。生活習慣病を防ぐ別の特殊栄養成分が抗酸化物で、この一つにコエンザイムQ10(CoQ10)があります。
CoQ10はエネルギー産生を促進させる働きのあるビタミン様物質で、大量のエネルギーを必要とする心臓、肝臓、筋肉にとって重要な栄養素の一つです。もう一つの重要な働きが抗酸化作用です。ビタミンEはこれも抗酸化作用をもつ重要なビタミンですが、これが活性酸素やフリーラジカルを消去するために働くと酸化型ビタミンEとなって逆に体に悪い方に作用してしまいます。このような特性を踏まえてもCoQ10の抗酸化作用はビタミンEより強力と言われており、活性酸素・フリーラジカルの作用を抑えることによってガンを発症させる原因であるDNAの酸化・損傷(特に、ガン抑制遺伝子)の抑制などに効果があります。CoQ10は20歳代から体内での生産が減少し始め、40歳代で激減します。免疫機能、心機能、糖代謝などを維持して生活習慣病を予防するためには摂取に気をつける必要のある補酵素といえます。


1.酸化によるいろいろな生活習慣病と微量元素
からだの中で発生した活性酸素はSODの働きで過酸化水素になり、さらにいくつかの酵素の作用で見ずと酸素にまで分解されますが、この働きに亜鉛、銅、マンガン、セレン、鉄のすべての微量元素が必須となります。蛋白摂取量の減少と微量元素摂取の減少はSOD活性を低下させますが、鉄や銅などの遊離イオンは強力な臓器障害作用があって肝障害等の原因になり、これを抑えるのが抗酸化物であるCoQ10、ビタミンE、カテキン等といわれています。
酸化ストレスとして尿中の代謝物を測定することでからだの状態を知る助けになり、例えば喫煙男性ではこれら代謝物(酸化ストレスマーカー)は高い値を示しています。
(1)慢性肝障害(マンガン・亜鉛・銅の関与)
大学病院外来で肝障害のある患者さんに微量元素補助飲料を摂ってもらったところ酸化ストレスマーカーの減少がみられ、肝機能も改善しています。CoQ10は微量元素同様、あるいはそれ以上の肝機能の改善が見られていますし、その改善効果の発現もかなり早い印象があります。
(2)糖尿病(クロムの関与)
亜鉛とマンガンは活性酸素を消去するSODに含めれていますが、糖尿病についてはインスリンの生合成にも必須の微量元素です。一方、2型糖尿病(いわゆる成人病型=生活習慣病)ではインスリンの分泌は保たれているのですが、インスリン抵抗性がみられることがあります。これは、食事後の血糖上昇にインスリン分泌のピークが遅れ、そのあとに過剰分泌してしまう状態で、インスリンレセプターというものの機能が低下して血液中の糖が筋肉や脂肪組織などの細胞の中に入れなくなっていることが要因の一つです。クロムはこのレセプターの機能(特に筋肉)に関与しているといわれています。
特に、空腹時は血糖値正常で食後の過血糖のみを示す状態は明らかな糖尿病ではなく境界型糖尿病として経過を見られている場合が多いのですが、このようなインスリンレセプター機能低下による病態は心血管疾患(心筋梗塞など)の発症リスクが高くなるので注意が必要です。臨床的には慢性肝障害同様にクロムを含む微量元素補助飲料を摂取すると血糖値の改善や酸化ストレスマーカーの減少が認められています。
2.創傷治癒(ケガの回復)と微量元素・nー3系不飽和脂肪酸
蓐瘡(床ずれ)のある寝た切りの患者さんは栄養摂取不足で、特に亜鉛、銅、抗炎症作用のあるnー3系不飽和脂肪酸が不足していることが多いようです。特殊栄養補助食品を投与することによってかなり改善することが臨床的に認められています。
nー6系不飽和脂肪酸(リノール酸)とnー3系不飽和脂肪酸(αリノレン酸、EPA、DHA)は細胞増殖促進やコラーゲン合成促進によって創傷治癒には良いほうに作用します。リノール酸は特に細胞増殖促進で子供には必須のものですが、成長期を過ぎるころになるとむしろ副作用である炎症促進作用が問題になってきます。日本も欧米化によりファーストフードが氾濫しnー6系不飽和脂肪酸を過剰摂取する傾向になってきています。nー3系とnー6系の比率が1対4となることが好ましい点は既に説明した通りです(nー3系脂肪酸)。

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3.食物線維
腸管の働きの一つに免役がありますが、この働きに食物線維が重要であることもお話しました(食物線維)。繰り返しになりますが食物線維は、便の量の増加、ぜん動亢進による便秘の改善に役に立つ不溶性食物線維と高脂血症や耐糖能異常の改善に有効な水溶性食物線維の2つに分けら、日本人が1日に必要な摂取量は20-25gですが平均的に17gくらいしか摂取されていません。食物線維の栄養効果には大腸のエネルギー、結腸粘膜の増殖刺激作用、結腸の血流増加作用、結腸炎症抑制作用、上部小腸通過時間抑制発癌抑制腸管内pHの低下などがあります(専門的なものを加えれば、エンテログルカゴン分泌増加、神経性ペプチド分泌増加、結腸・小腸絨毛増殖作用、Damine Oxidase:DAO活性上昇作用)。

プロバイオティクス(Probiotics)とプレバイオティクス(Prebiotics)
最近ヨーグルトなどにプロバイオティクスと表示してあるものをよく見かけます。これは、ビフィズス菌・乳酸菌・酪酸菌等腸内フローラのバランスを改善させて体に良い作用をもたらしてくれる菌のことです。特にビフィズス菌は最優勢菌群です。一方、プレバイオティクスは小腸で消化吸収されずに大腸に達し、善玉菌に選択的に食べられる(資化)餌になるものでペクチンやグアーガムなどがあります。腸疾患の場合など食物線維とこれら善玉菌を同時に投与することが大切です。

第1回目はn-3系脂肪酸について 
第2回目は食物繊維について 

第3回目は微量元素と病気について 
第5回目は目と脳・皮膚の若返りについて 

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