骨粗鬆症 こつ・そしょう・しょう

骨粗鬆症とは、骨のミネラル成分(カルシウム・リンなど)やたんぱく質などの減少に伴い骨の密度が減少して、骨が大変もろくなる状態の疾患です。骨は通常4−6ヶ月を1サイクルとして生成(骨形成)と破壊(骨吸収)を繰り返して柔軟性や強度を保っています。
腰痛症(背部痛)の原因の一つですし、背中がネコの背のように丸く曲がってしまうなどの変形を起こしてくることもあり、さらに重いものを持ち上げたり、ぶつかったり転倒したりしたときに骨折を起こしやすくなります。背骨が丸く変形してくるのは椎骨(背骨を構成する骨)が圧迫骨折を起こし前の部分がつぶれてしまうために起こります。また、転倒したときには手首の骨や脚の付け根(大腿骨頚部)、さらに肩や肋骨の骨折を起こしやすくなり、高齢者の場合、このために寝た切りになってしまう恐れもあります。さらに、寝た切りは痴呆症状の出現やこれを増悪することになります。
高齢者によく見られるため老化現象と思われているところがありますが単に加齢のみで起こる病気ではありません。ただ、高齢者人口の増加にともないこの病気も増加しているのは事実で、65歳以上の3人に1人はこの病気の疑いがあると言われています。特に、ホルモンが関係するので閉経後の女性に多く起こってくる病気です。

骨粗鬆症の症状
軽度の場合
 1.立ち上がるときに背中や腰が痛い
 2.重いものをもつと、背中や腰に痛みを感じる
 3.背中や腰が曲がってくる
 4.身長が縮む
背骨(椎骨)は体の中心となる支柱のようなものですが、もろくなると体を支える力も弱くなります。そこで、背中の筋肉は背骨に代わって体を支えるように働き、慢性的に過労状態に陥ってきます。これが初期の痛みの原因の一つですが、このような時期では体を動かすこと(軽い体操や毎日の散歩など)は筋力の増強に大切なことと言えます。

以上の症状から始まり続いていきますが、進行して重度になると次のような状態になります。
 1.背中や腰が痛くて寝込んでしまう、そして気分がふさぎ痴呆が進むことがある
 2.転んだだけで、あるいはぶつけただけでも手首や股関節の骨折が起こる->寝た切りを招く
 3.背中や腰の曲がりかたがひどくなり、いつも前かがみの姿勢になってしまう->胃腸症状の出現
 4.身長がかなり縮んで目立つようになる


骨粗鬆症の起こる原因
よく言われているのはカルシウムの摂取量不足です。カルシウムは骨の構成にもっとも大切な成分です。
日本人の食事で唯一不足しているのがカルシウムです。 そこで、まず第一にカルシウムを多くとるようにします。カルシウムは乳製品や大豆製品、小魚、緑黄野菜、海草などに多く含まれていますが吸収されにくいので、良質のたんぱく質やビタミンDを多く含む食品といっしょにとることで吸収を助けます。 カルシウムは1日600-800mg(毎食時に200mg以上)摂取するよう心がけましょう(厚生労働省は1日の摂取量上限を2,500mgとしています)。
インスタント食品を多く摂ると、それに含まれる(添加物)リンがカルシウムの吸収を阻害しますのでこのような食品の摂り過ぎはよくありません。
(1)遺伝に関係するもの
   閉経の時期、出産歴のない場合、痩せ型の人、家族歴のある場合、アジア人・白人など
(2)生活のしかたに関係するもの
   偏食、運動不足、過度のアルコール・コーヒーの多飲、喫煙、日光照射不足
(3)病気に関係するもの
   
胃切除、糖尿病、甲状腺機能亢進症、高カルシウム尿症、 副腎ステロイド投与、卵巣機能不全、
   原発性副甲状腺機能亢進症、腎不全など

骨粗鬆症の診断
背部痛や腰痛が見られる場合、あるいは転倒したときに骨折(脆弱性骨折きじゃくせいこっせつ:骨がもろく弱くなって弱い外力や刺激でも起こる骨折)の既往がある場合、骨量(骨密度)を測定する。
(1)骨密度測定
   D(E)XA法(椎骨)、MD法(中手骨)、QCT法、超音波法などがあり、むらかみクリニックではMD法で測定しています。

 原発性骨粗鬆症(げんぱつせい こつ そしょう しょう)の診断基準(2000年度改訂版)に従い、上記で測定した骨密度値がYAM*の80%以上は正常、骨折の既往がなくて骨密度が70%以上80%未満は骨粗鬆症疑い(骨量の減少)あり、70%未満は骨粗鬆症、70%以上80%未満でも骨折の既往がある場合は骨粗鬆症と診断します。
   *YAM:若年成人平均値(20〜44歳の成人女性)、骨密度測定は原則的に椎骨で行う

(2)骨代謝マーカー測定:BAP(血液:骨形成)、NTX(血液・尿:骨吸収)、DPD・CTX(尿:骨吸収)など
   これから起こりうる骨折の予測因子となり得るもので、治療薬の選択にも有用。

骨粗鬆症の予防
(1)散歩:毎日30分から1時間くらいは歩くようにしましょう。
(2)日光浴:ビタミンDの吸収を助け、骨を強くするのに役に立ちます。ただし強い日差しの時は避けてください。
(3)体操・運動:腹筋や背筋を鍛えることは骨の慢性疲労を予防し骨吸収(骨が溶けること)を防ぎます。
(4)食生活の注意:次の食事療法で説明しているように食事の内容は予防に大変重要です。
(5)入浴:筋肉の痛みを和らげリラックスした気持ちになれます。

骨粗鬆症の治療
腰痛や背部痛の軽減・除去を目的としたものと、骨折の予防に重点を置いた治療法があり、理学療法、食事療法やくすりを用いた薬物治療が主となりますが、薬物療法で用いるくすりにはいくつの種類がありそれぞれの適応があります。
1.理学療法
 (1)運動療法:予防や骨量増加には適度の運動負荷が必要です。急性期は運動制限もありますが、慢性期には散歩などの有酸素運動が簡単で、また治療体操(腰痛体操など)も効果を期待できます。
 (2)物理療法:温熱療法(当クリニックにある、全身の温熱効果のあるEmbraceや局所のマイクロ波治療器など)、光線療法、電気療法、マッサージなどがあり、疼痛除去のため多くの鎮痛剤を使うことによる副作用を最小限にすることができます。
 (3)ヒッププロテクターの使用:大腿骨頚部骨折の予防
2.食事療法

栄養不足や食事の偏りをしないことが大切です。カルシウムのみではなく、カリウム、マグネシウム、ビタミン類(特にビタミンC,,K)やたんぱく質を十分摂るようにして、体重も増やさないことが必要です。
カルシウムは1日600mgが厚生労働省の示す基準で、閉経後や高齢者は800mg以上摂ることが勧められます。乳製品(牛乳毎日1〜2本)、豆腐などの大豆製品、緑黄色野菜、魚介類を多く摂るようにしましょう。逆に、ナトリウム(塩分です)、カフェイン、アルコール、ビタミンAの摂り過ぎ、カルシウムの吸収を妨げるリンを多く含むインスタント食品の過剰摂取や喫煙は骨粗鬆症を悪化させることになりますので避けるようにしましょう。
3.薬物療法(骨粗鬆症の治療に関するガイドライン 2002年度改訂版より)
(1)エストロゲン製剤
骨組織に直接的・間接的に作用して骨吸収(骨からカルシウムが溶け出すこと)を抑制するので閉経後の骨折の危険性が高い場合に用いられる薬剤です。ホルモン製剤なので、副作用として乳がんの発生率が増加する点があげられます。選択的エストロゲン受容体モジュレーターとして骨折の発生を強く抑制する効果をもつラロキシフェン製剤が2005年から日本でも処方できるようになりました。この薬剤はこれまでのエストロゲン製剤と比べて子宮内膜症発症などの副作用はかなり改善されていますので、閉経後で上記骨代謝マーカーのNTXが35.3以上の方に最適となります(2004年度ガイドライン)。
(2)ビスフォスフィネート製剤:現在、主流になりつつある製剤です
強力な骨吸収抑制作用と同時に骨石灰化作用を合わせ持ち、閉経後骨粗鬆症に特に効果が期待できます。副作用として、胃腸障害(不快感や潰瘍形成など)があります。このグループのアレンドロネートは男性の骨粗鬆症とステロイド性骨粗鬆症でも信頼性の高い骨量増加と骨折予防効果を有する薬剤です。さらに、リセドロネートは、年齢や閉経後経過年数に関係なく骨密度を増加させる作用があり、骨代謝学会の診断基準で骨粗鬆症と診断された場合に使われる製剤です。
(3)カルシウム製剤
明らかなカルシウム不足の場合(胃・腸管切除後、神経性食欲不振症、極度の小食、乳糖不耐症など)に他の薬剤と併用して用いることが多い薬剤です。
(4)カルシトニン製剤
直接的に破骨細胞に作用して骨吸収を抑制し、中枢性の鎮痛作用を合わせ持つ製剤です。特に、腰痛症や背部痛に効果がありますが、注射製剤のため毎週の注射そのものが苦痛となったり、副作用の一つである注射時の悪心の出現などで長続きしないこともあるようです。
(5)蛋白同化ステロイド製剤
骨形成の促進作用を有する薬剤ですが、現在では骨粗鬆症に使う頻度は高くないようです。
(6)活性型ビタミンD3製剤
腸管でのカルシウム、リンの吸収の促進、副甲状腺でのPTH(パラソルモン:副甲状腺ホルモン)の合成及分泌の抑制などの作用があり、70歳以上の老年性骨粗鬆症や、胃・腸管切除後などのカルシウム不足が起こりやすい場合によく使われる製剤です。また、上記の他の製剤と併用して使われることが多いのですが、使い過ぎなどで血液中のカルシウム濃度が増加することに注意が必要です。現在、骨により高い特異性をもつED-71という薬剤が開発されています。
(7)ビタミンK2製剤
骨密度の増加効果は少ないのですが、骨折予防効果が報告されています。ビタミンKは緑色野菜、肉、卵及び納豆などに多く含まれており、これらの食物の摂取不足や食習慣など考慮して使われる製剤です。
(8)イプリフラボン製剤
非ホルモン性フラボノイドで、卵巣摘出女性及び閉経後直後、また高齢者の骨吸収と骨形成の両方に作用すると考えられています。作用は穏やかですが、抗凝固剤による治療を行っている場合は注意が必要です。

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