1年のうち特に6月以降は梅雨に入りさらに高温多湿の夏になると細菌の増殖しやすい環境になり、食品そのものも傷みやすいなどで細菌性腸炎(食中毒)が増えてきます。最近は9月になっても暑い日が続き、台風の発生も多いようです。感染性腸炎は寒い時期でも発生しますが、その場合はロタウイルス、小型球形ウイルス(SRV)やコロナウイルス(新種SARSウイルスとは異なります)等が原因となっていることがほとんどです。春先からの季節に発生しやすくなる食中毒の原因やそれぞれの原因による特徴、診断方法、治療また予防などについて解説します。

1.食中毒の種類
2.細菌性食中毒(感染性腸炎)の原因となる主な菌
3.食中毒の診断
4.食中毒の治療
5.細菌性食中毒の予防

1.食中毒の種類
食中毒はフグ、毒きのこ等の自然界にある毒素化学物質による胃腸炎(急性アルコール中毒など)、ウイルスによる感染性腸炎及び細菌感染性食中毒があります。さらに、細菌性腸炎には細菌そのものによるものと細菌から出る毒素によるものがあります。前2者は食中毒全体の2%以下しかありませんが発生件数では6-8%になりフグやキノコによるものなど死亡率が高くなるのが特徴です。食中毒の90%以上は細菌性のもので、サルモネラ、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌・病原性大腸菌(O-157など)、カンピロバクター、ウェルシュ菌、セレウス菌、ボツリヌス、赤痢菌、コレラ菌、リステリア菌等があります。アンダーラインの原因菌は最近増えつつあり、腸炎ビブリオの中のビブリオ・バルニフィカスは肝障害を持つ人が感染・発病すると重篤な症状となることがあり、またリステリアによる食中毒は欧米で見られることが多くいずれも油断できません。

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2.細菌性食中毒(感染性腸炎)の原因となる細菌
(1)サルモネラ(顕微鏡写真
0.5-2μmの嫌気性グラム陰性桿菌で、周毛性の鞭毛があって活発に動き腸管内で約100万個以上に増殖して発症します。動物の腸管、自然界(河川、湖川、下水など)に多く存在し、胞子を形成しないので熱に弱く、加熱によって死滅します。特に、鶏肉と卵を汚染し発症させることが多い菌です。
(2)腸炎ビブリオ(
顕微鏡写真
1本の鞭毛と数本の細い側毛を持つグラム陰性桿菌でサルモネラ同様胞子を形成せず熱に弱い菌です。海水(塩分3%)で増殖し10℃以下や塩分のないところ(真水)や酸の中では増殖できません。魚介類を汚染することが多く、室温でもよく増殖しますので放置しておいた魚介類から発症することが多い菌です。
(3)ブドウ球菌(
顕微鏡写真
μmのグラム陽性球菌ですがブドウの房状に集合するのでこの名前がついている化膿菌の代表で、人や動物の毛・皮膚、鼻腔、咽頭などに常在しています。腸管毒素エンテロトキシンを産生しこれは100℃で加熱しても不活化しないので食材に感染し中で増殖させないことが大切です。
(4)腸管出血性大腸菌(O-157)・病原性大腸菌(
顕微鏡写真:3類感染症に指定
動物の腸管内に生存する
グラム陰性桿菌で、通常腸管内に存在する常在性大腸菌とは病原性以外は区別できません。糞尿を介して飲料水などに汚染したり食肉処理過程で生肉を汚染したりして感染します。芽胞の形成はなく加熱や消毒処理には弱いのですが、少ない菌量でも発病することがあるので(100個くらい)注意が必要です。O-157、O-26、O-111、O-128などがありますが、毒性の強いベロ毒素を出しHUS(溶血性尿毒症症候群)を合併して死に至ることもあります。
(5)カンピロバクター(
顕微鏡写真
家畜・家禽類の腸管内に生息する両端に紐状の鞭毛を有するらせん状のグラム陰性菌で、食肉(特に鶏肉)・臓器・飲料水を汚染し小児の下痢症の原因菌として重要な菌です。乾燥には弱く加熱で死滅します。
(6)ボツリヌス菌(
顕微鏡写真
自然界・土壌や家畜の腸管に存在するグラム陽性・嫌気性菌(空気が遮断されているところを好んで生息)で胞子(芽胞)を形成し熱には強い菌です。極めて毒性の高い神経毒(ボツリヌス毒素)を産生し、この毒素を不活化するためには80℃で20分以上の加熱が必要で、この毒素による感染は致死率が高いので(25%)厳重な注意が必要です。
(7)ウェルシュ菌(
顕微鏡写真
人や動物の腸管、土壌、下水等に常在するグラム陽性嫌気性桿菌でボツリヌス同様に胞子を形成し、増殖によって毒素を産生します。100万個以上の菌の増殖で発病し、戦争時のガス壊疽の原因菌として知られています。この毒素も熱に強く、不活化するには100℃で1−2時間の加熱が必要です。
(8)セレウス菌(
顕微鏡写真
土壌や下水・河川などの自然界に広く生息するグラム陽性好気性桿菌で、熱に強い芽胞(胞子)として存在し毒素を産生します。この芽胞は100℃で30分加熱しても死滅しない耐熱性の強いものですが、下痢型と嘔吐型の比較的軽症の食中毒の原因となります。
(9)コレラ菌
ビブリオ属に分類されるグラム陰性桿菌で、片側性の1本の鞭毛を持つ無芽胞の菌です。通常は胃液中ですぐ死滅しますが、腸管内に進入するとコレラ毒素を産生し下痢を起こします。ビブリオコレラO-1やO-139は2類感染症に指定されていますが、non-O1やnon-O139も食中毒と関係あります。
(10)赤痢菌
人と猿の霊長類だけに病原性を発揮するグラム陰性桿菌で、腸管上皮細胞を破壊して血便を起こすため赤痢と呼ばれ2類感染症に分類されています。
(11)エルシニア菌
動物の腸管や自然界にも広く生息し、糞尿を介して食肉や飲料水・井戸水などを汚染し病原性を発揮します。冷蔵庫内の低温環境でも増殖しますので油断できません。
(12)リステリア・モノサイトゲネス
動物(家畜・野生動物)、魚類、河川などに広く生息し、食肉、チーズ(未殺菌)、サラダ、生の魚(刺し身)などを汚染し病原性を発揮します。冷蔵庫などの低温環境でも増殖可能ですが、65℃で数分間加熱することで死滅させることができます。


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3.食中毒の診断
細菌性食中毒は文字通り細菌による感染症ですので、便や血液から細菌や産生される毒素を検出することで診断されます。しかし、現実はすぐに診断できないことが多く、来院時下痢・嘔吐・発熱・腹痛等症状を訴える患者さんに診断が確定するまで待ってもらうわけにはいきません。従って、診断は検便や血液検査を行なうと同時に現在の症状、飲食歴、渡航歴、家族等同じ飲食・飲水を行なった人の症状の有無、など診察によって診断を絞り込んですぐに治療を行なう必要があります。細菌性腸炎(食中毒)の特徴を表にまとめています;



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4.食中毒の治療
以下のような対症療法が中心となります。
A.制吐薬
 吐気・嘔吐の強い場合は制吐剤を使用しますが最低限の使用にとどめるようにします。
B.鎮痛薬
 腹痛の強い場合は鎮痛剤を使用しますがこれも最低限の使用にとどめるようにします。
C.止痢薬
 下痢が強い場合の止痢薬(下痢止め)の使用は病原体の排泄を遅らせ回復を遷延させるため原則として使用すべきではありませんが、受診された方も止痢薬を使用しないことについて理解する必要があります。
D.食事
 食事の制限は症状が強い場合には必要ですが、症状の軽いものは主食程度を少量から開始して構いません。水分の制限は脱水予防の観点から決して行うべきではありません。
E.水分
 水分制限を行う場合には点滴(補液)による水分量の補給を行い尿量を保つようにします。軽症の場合の代替えとして電解質入り飲料(スポーツドリンク類)でも構いません。ただ、スポーツ飲料の類は一般に塩分が少な目であることには注意が必要です。
F.抗生物質
 抗生物質の使用は一般的に必要がないが,サルモネラ(ニューキノロン、アンピシリン、ホスホマイシン等)、カンピロバクター(マクロライド)、病原大腸菌(ニューキノロン、ホスホマイシン等)などの症状が激しいものについては使用します。
G.ボツリヌス中毒
 神経毒素で呼吸機能が悪くなる場合があるので気道を確保し呼吸管理を行います。速やかに多価抗毒素血清を入手し(千葉県血清研究所)投与する必要があります。

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5.食中毒の予防
食中毒の感染予防はそれぞれの原因菌についての知識(食品や感染経路など)を知って予防することも大切ですが、この中で感染経路について特に注目し、一次感染と二次感染に分けて予防に役立てた方が分かりやすいと思います。
(1)一次感染の予防
1.食品に対する注意
  充分な洗浄、冷凍食品は充分な解凍、充分な加熱など
2.調理器具・調理場の衛生管理
  包丁・まな板・調理器具など熱湯や消毒石けん(次亜塩素酸ナトリウムなど)で消毒し常に清潔にしておく
3.調理する人の衛生管理
  手洗いの励行、手袋の着用等
4.調理後の食品の衛生管理
  調理後の食品は長く放置しない、冷蔵庫内の調理済み食品を過信しない等
(2)二次感染の予防
二次感染(食中毒の患者さんから出た菌が他の患者さんに感染を引き起こす)を起こす菌は2類感染症の赤痢・コレラと3類感染症の腸管出血性大腸菌(O-157などの病原性大腸菌)で、ボツリヌス菌も重症化することがありますが二次感染は報告されていません。
1.手洗い・消毒の励行・手袋の着用
上記の食中毒の原因菌は糞便などを介して拡がりますので、まず充分な流水や消毒石鹸を使った手洗いの励行が重要です。もちろん、洗った手はそのままにせず充分に乾燥させて下さい。医療従事者など、また食中毒の患者さんと接する場合などはその都度手袋(ディスポ)を付け、手洗いも行なう必要があります。手洗いの励行・手袋の着用についてはWHOも今回のSARS感染に関連してその有用性の記事をだしています。
2.寝具・リネン・衣服の洗濯
糞尿を介して拡大する(二次感染)腸管感染症の場合、感染者の排泄物が付いた寝具・リネン・衣服を洗濯する際は80℃10分間のお湯で洗剤を使った洗濯が原則です。お湯が使えない場合、すすぎの際に次亜塩素酸ナトリウム液(0.01%-0.1%)に5分間以上浸けておくようにします。
3.トイレ等の洗面台の衛生管理
トイレや洗面台周りは湿り気が高い場合が多く、これに気温の上昇が加われば菌の増殖を助けることになります。洗面台やトイレ周囲は石鹸や塩素石鹸で洗浄・消毒し充分乾燥させておくことが大切です。

厚生労働省が家庭でできる食中毒予防6つのポイントを公表しています(1997)のでそれらを付け加えておきます;
ポイント 1 :食品の購入
■ 肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮な物を購入しましょう。
■ 表示のある食品は、消費期限などを確認し、購入しましょう。
■ 購入した食品は、肉汁や魚などの水分がもれないようにビニール袋などにそれぞれ分けて包み、持ち帰りましょう。
■ 特に、生鮮食品などのように冷蔵や冷凍などの温度管理の必要な 食品の購入は、買い物の最後にし、購入したら寄り道せず、まっすぐ持ち帰るようにしましょう。

ポイント 2 :家庭での保存
■ 冷蔵や冷凍の必要な食品は、持ち帰ったら、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れましょう。
■ 冷蔵庫や冷凍庫の詰めすぎに注意しましょう。めやすは、7割程度です。
■ 冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下に維持することがめやすです。温度計を使って温度を計ると、より庫内温度の管理が正確になります。細菌の多くは、-10℃では増殖がゆっくりとなり、-15℃では増殖が停止しています。しかし、細菌が死ぬわけではありません。早めに使いきるようにしましょう。
■ 肉や魚などは、ビニール袋や容器に入れ、冷蔵庫の中の他の食品に肉汁など がかからないようにしましょう。
■ 肉、魚、卵などを取り扱う時は、取り扱う前と後に必ず手指を洗いましょう。せっけんを使い洗った後、流水で十分に洗い流すことが大切です。 簡単なことですが、細菌汚染を防ぐ良い方法です。
■ 食品を流し台の下に保存する場合は、水漏れなどに注意しましょう。また、直接床に置いたりしてはいけません。

ポイント 3 :下準備
■ 台所を見渡してみましょう。 ゴミは捨ててありますか? タオルやふきんは清潔なものと交換してありますか? せっけんは用意してありますか?調理台の上はかたづけて広く使えるようになっていますか? もう一度、チェックをしましょう。
■ 井戸水を使用している家庭では、水質に十分注意してください。
■ 手を洗いましょう。
■ 生の肉、魚、卵を取り扱った後には、また、手を洗いましょう。途中で動物 に触ったり、トイレに行ったり、おむつを交換し たり、鼻をかんだりした後の手洗いも大切です。
■ 肉や魚などの汁が、果物やサラダなど生で食べる物や調理の済んだ食品にかからないようにしましょう。
■ 生の肉や魚を切った後、洗わずにその包丁やまな板で、果物や野菜など生で食べる食品や調理の終わった食品を切ることはやめましょう。洗ってから熱湯をかけたのち使うことが大切です。包丁やまな板は、肉用、魚用、野菜用と別々にそろえて、使い分けるとさらに安全です。
■ ラップしてある野菜やカット野菜もよく洗いましょう。
■ 冷凍食品など凍結している食品を調理台に放置したまま解凍するのはやめましょう。室温で解凍すると、食中毒菌が増える場合があります。解凍は冷蔵庫の中や電子レンジで行いましょう。また、水を使って解凍する場合には、気密性の容器に入れ、流水を使います。
■ 料理に使う分だけ解凍し、解凍が終わったらすぐ調理しましょう。解凍した食品をやっぱり使わないからといって、冷凍や解凍を繰り返すのは危険です。冷凍や解凍を繰り返すと食中毒菌が増殖したりする場合もあります。
■ 包丁、食器、まな板、ふきん、たわし、スポンジなどは、使った後すぐに、洗剤と流水で良く洗いましょう。ふきんのよごれがひどい時には、清潔なものと交換しましょう。漂白剤に1晩つけ込むと消毒効果があります。包丁、食器、まな板などは、洗った後、熱湯をかけたりすると消毒効果があります。たわしやスポンジは、煮沸すればなお確かです。

ポイント 4 :調理
■ 調理を始める前にもう一度、台所を見渡してみましょう。下準備で台所がよごれていませんか? タオルやふきんは乾いて清潔なものと交換しましょう。そして、手を洗いましょう。
■ 加熱して調理する食品は十分に加熱しましょう。加熱を十分に行うことで、もし、食中毒菌がいたとしても殺すことができます。めやすは、中心部の温度が
75℃で1分間以上加熱することです。
■ 料理を途中でやめてそのまま室温に放置すると、細菌が食品に付いたり、増えたりします。途中でやめるような時は、冷蔵庫に入れましょう。再び調理をするときは、十分に加熱しましょう。
■ 電子レンジを使う場合は、電子レンジ用の容器、ふたを使い、調理時間に気を付け、熱の伝わりにくい物は、時々かき混ぜることも必要です。

ポイント 5 :食事
■ 食卓に付く前に手を洗いましょう。
■ 清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器に盛りつけましょう。
■ 温かく食べる料理は常に温かく、冷やして食べる料理は常に冷たくしておきましょう。めやすは、温かい料理は
65℃以上、冷やして食べる料理は10℃以下です。
■ 調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置してはいけません。例えば、O-157は室温でも15-20分で2倍に増えます。

ポイント 6 :残った食品
■ 残った食品を扱う前にも手を洗いましょう。残った食品はきれいな器具、皿を使って保存しましょう。
■ 残った食品は早く冷えるように浅い容器に小分けして保存しましょう。
■ 時間が経ち過ぎたら、思い切って捨てましょう。
■ 残った食品を温め直す時も十分に加熱しましょう。めやすは
75℃以上です。味噌汁やスープなどは沸騰するまで加熱しましょう。
■ ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てましょう。口に入れるのは、やめましょう。

食中毒予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」です。
「6つのポイント」はこの三原則から成っています。これらのポイントをきちんと行い、家庭から食中毒をなくしましょう。食中毒は簡単な予防方法をきちんと守れば予防できます。それでも、もし、お腹が痛くなったり、下痢をしたり、気持ちが悪くなった りしたら、かかりつけのお医者さんに相談しましょう。


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