平成12年度(2000年)


 1.光学式顕微鏡の提供
 中国の感染地域(江西省のカウンターパート経由)光学顕微鏡の寄贈
 中国における寄生虫疾患の感染地域は最近の急速な経済発展にも拘わらず発展から取り残されている地域が多く、最近の急速な経済発展にも拘わらず寄生虫疾患の診断の基本である便検査に必須の顕微鏡の絶対数不足が続いていることから、今年度も新しい便検査器材の一部と顕微鏡を寄贈することとし、今年もカウンターパートの各寄生虫病研究所を通じて地方の感染地域の診療所(保健所を兼ねる)に設置してもらうようにした。これは、感染地域の住血吸虫症診療所のスタッフがいつでも確実な診断を行える環境を整えることで彼らの自立を促すことにつながっていくと考える。
 今回、中国経済の発展に伴いインフラの整備によって停電の回数が激減し比較的電力の供給も安定していることから日本製のハロゲン電源を内蔵し診断のし易い、また高倍率も使用可能(他の3大寄生虫疾患の一つであるマラリアの診断にも応用可能)の顕微鏡を提供することにした。多くの開発途上国で寄生虫疾患の診療に携わった経験のあるASSCAスタッフから、地方の感染地域では電源の必要な顕微鏡を用意しても、電力が供給されていない、停電が頻発する、等によりむしろ無用の長物になってしまうため、いつでもどこでも使える反射鏡式光学顕微鏡の方が有用という意見があり一昨年までは反射鏡式の光学顕微鏡を寄贈した。経済発展に伴ってインフラが整備されてくると、診断効率の高い光源内蔵の顕微鏡を提供して地方スタッフの診断能力も向上させていくことも重要と考えられ今回も昨年同様電源内蔵の顕微鏡の寄贈となった。一方、日本側の経済的事情で複数の機器を同時に数カ所の施設に提供することは困難で、今年度も1台を提供することとなった。

 2.スタッフ等の派遣状況
 今年度も中国の住血吸虫濃厚感染地域である江西省と四川省の各感染地域での診療活動を行うが、10月26日から現地に出向いて実施した。
 今年度は公募で応募者を選定し、江西省の診療に6名、四川省の診療に7名を派遣した(内3名は重複)。内訳は2ヶ所を廻って活動する専門家(申請している専門領域を担当)2名と衛生教育担当スタッフ1名、江西省に超音波検査担当専門家3名(1名は自己負担での参加)、四川省に超音波検査専門家2名、便検査担当専門家(自費参加)1名、加えて衛生教育担当スタッフ1名の総勢10名の派遣者で診療、検査衛生教育等を実施した。
 10名の他1名は(村上知子:ASSCA代表補佐)、単独で中国の感染地域を廻りボランティア貯金から現地活動費用として認められている配分金を各カウンターパートに手渡し、使途に関する詳しい規則等を説明し受領証で確認する事を目的としている。毎年の事であるが、使途、帳簿、領収書等詳しい説明を行い、活動を行う感染地域に出向いて現地スタッフとの打ち合わせや日本のボランティア貯金の趣旨を説明する。また、各省政府、感染地域のある地方政府の衛生部の指導者と会って上記の事項を説明し協力関係を確認することになっている。実際は、各自の仕事の日程が調整できず、今回はASSCA代表ではなく代表補佐を務める村上知子が訪中したが、限られた時間と中国国内のフライトスケジュールの関係で江西省の感染地域のみを訪れ前記業務を行っている。四川省に関しては、時間が足らなかったことと、これまでの同じ担当者《カウンターパート副所長で援助事業開始当初から窓口をなっている人物》が渉外で訪問する日程中不在であったことで今回は訪れず、事前にメールでの連絡を行った。カウンターパート担当者不在中もこの担当者の出張先とメールで連絡を取り合って調整を行っていた。実際には活動資金は現地で活動するスタッフに依頼して手渡している。連絡を取り合っていた現地担当者は、感染地域で当団体と現地カウンターパートが診療活動を行っている期間に間に合うように出張から戻り、打ち合わせした内容の確認と現地カウンターパート側の活動に指揮をとっている。

 3.現地での活動
(1)四川省感染地域での住血吸虫症患者の診療
 四川省では、昨年に引き続き蒲江県長秋郷(Pojiang Changqiu township)の住民に対する診療を行った。寄生虫疾患の対策事業は1年・1回限りで成果が現れるものではなく最低3年間は事業を継続し、事業の中の衛生教育によって住民の意識が高まり少しずつ効果が現れ、最終的に満足行く結果が出るのは中国の現状から10年以上後のことと思われる。従って、最低3年は同じ感染地域で事業を継続することが望ましいが、諸事情を考え2年の継続を最低必須条件として今回も昨年と同じ地域で実施した。  
 診療内容は、前年同様便検査による虫卵検査、超音波検査による肝の形態変化診断(住血吸虫症独特の所見をとらえる)、血液検査(住血吸虫抗原による免疫学的診断)、周辺の川や水田の水でのセルカリア(住血吸虫幼虫)の状況検査(検出、濃度)を行い、総合的に感染とその程度を把握し、その後の治療に反映させる。長秋郷での対象住民は約1,400名であった。
 これまでの中国感染地域における活動終了時の感染率は、江西省飯湖村では約10%、江西省新華村で約11%、四川省眉山県盤鰲郷では約12%となっている。
 今回までに2年間活動した四川省蒲江県長秋郷は、申請団体がこれまで3年間診療援助を継続実施した眉山県盤鰲郷と隣接する県にあり現地協力団体の事前の診療結果に基づく感染率は30%以上であったが、1999年にASSCAと実施した時の感染率(便検査陽性率)は27.5%であった。この年から診断・治療・衛生教育を中心とした活動を続け、2000年(今回)の診療活動での感染率は17%に改善している。

   


 地域全体の感染率を5%以下に維持することが最終的な目標であるが、成人平均で10%前後、学童のみ5%前後まで成果があった地域での診療や教育を中断すると自力で5%以下に改善させることは住民の経済状態から考えて実現は不可能に近く、すぐに元の感染率に近い15%位(あるいはそれ以上)に戻る危険性がある。従って、診療、衛生教育等の継続が必要と判断する。通常は一つの感染地域での援助活動継続は寄生虫疾患病態学や疫学の特徴から少なくとも3年間は必要である。

(2)四川省での保健衛生教育
 また、郷(村)内にある小学校(兼)中学校のほぼ全学年(約500名)を対象に人形劇を使った衛生教育を実施した。人形劇の器材、演出等すべて日本側のスタッフによる手作りで、前年度の活動では大好評で教育効果も大きかったことから今回も第2段として制作し、昨年同様子供たちに分かりやすいように工夫して実施した。
 江西省でも四川省と同じ活動を行った。対象地域は昨年同様瑞昌県るいちゃんけん永豊村で実施した。
同じ地域で実施する理由は四川省の場合と同じである。診療(検査)も同じ内容で、治療に関しては各省政府衛生部(日本政府の厚生労働省に相当)やカウンターパートの財政状況に基づいた治療法があり、その方針で実施するが、前年度の診療結果から既に治療対象者には投薬がなされているので今回はその継続となる。今回の検査結果でさらに対象者を絞って(便検査による感染陽性[感染率に関係]の判定と超音波検査による肝形態の変化[罹患率に関係]を考慮)投薬が実施され、その成果は次ぎの年度の診療活動で判定することとなる。今回の対象住民は約2,000名で、小学校児童以上80歳未満の住民を対象として検査を行っている。

(3)江西省での保健衛生教育
 衛生教育は四川省同様ASSCAの活動の中では最も重要な項目で、こちらの感染地域では村長(郷長)や校長の希望もあって小学校の全校生徒(約330名)と昨年同様近隣の幼稚園児も対象に実施した。教室が狭く、勿論体育館などのホールも無いため、教室に入れる人数で数回に分けて四川省同様日本で制作し演出を行っている人形劇による衛生教育を実施した。江西省の感染地域(瑞昌県永豊村:Ruichang YiongFeng)は四川省の山間部地域と異なり、また前年度までのポー陽湖々畔の集落とも異なりポー陽湖こから少し離れた丘陵地帯で、前年度までの江西省での感染地域である湖川地域とは感染状況が違っている。

(4)現地専門家の指導
 各感染地域で活動の際には現地専門家と討論の場をつくり、検査の時には実地での技術指導や意見交換を行った。住血吸虫症の診断技術は日本やその他の先進国の研究者によって日々開発・改良され続けている。申請団体の専門家には寄生虫疾患の専門家もいるため、ボランティアで新しい、効率的な診断技術を指導している。開発途上国における寄生虫疾患の感染現場はインフラ整備の遅れている地域が多く、そこではできるだけ迅速に、また確実に(偽陰性や偽陽性の無いことが重要)、さらに安く、再現性が可能(検体を別の機関で再診断できる)な診断法が必要不可欠である。従って、毎年現地で活動するときに新しい技術を伝え、指導することとしている。今年度も特に新しい便検査に必要な器材や消耗品の一部提供も含め現場での技術指導を実施した。
 中国での超音波診断技術はかなり向上しており、今回も感染地域での検査時に討論を行い必要な指導も実施している。
 平成12年度の活動の中で、江西省の専門家を日本の高度研究機関に招聘し討論を行うことが現地での活動時に現地カウンターパート側から提案され実現に向けて前向きに検討しているが、諸事情によりまだ実施されていない。

(5)診療(検査)結果に基づく治療
 治療は診療結果に基づいて現地スタッフがこれを実施し、成績を報告するようになっている。前年度の診療結果に基づく治療は既に対象者に対して実施済み。
 治療方法は前述の通り江西省・四川省のかく政府衛生部の方針で異なり、診療活動結果で検討して行っている。治療はプラジカンテルという内服薬の投与で、感染状況により年1回あるいは2回の投薬を行っている。重症感染者あるいは感染地域に住む人々(学童含む)には予防薬(内服薬)の投与を感染時期前に実施する。さらに、感染地域では人畜共通の寄生虫疾患である住血吸虫感染において人以外に感染媒体となる家畜(主に水牛)に対する治療薬投与も実施し、感染蔓延を防いでいる。
 検査終了後の投薬はすでに実施済みで、予防薬投与は感染時期前である6月から7月にかけて実施する(次の年)。

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