平成13年度(2001年)


 1.援助事業の実施状況及び効果
 今年度も中国の住血吸虫濃厚感染地域である江西省と四川省の各感染地域での診療活動及び衛生教育、現地スタッフの指導・討論等を10月27日から11月11日の約2週間の滞在で行った(江西省、四川省の感染地域に各1週間の滞在)。
 今年度も公募での応募者を選定し、江西省の診療に5名、四川省の診療に6名を派遣した(内3名は重複)。内訳は2ヶ所を廻って活動する専門家(申請している専門領域を担当)1名と衛生教育担当スタッフ兼便検査実施・指導2名、江西省に超音波検査担当専門家2名、四川省に超音波検査専門家2名、便検査担当専門家1名の総勢延べ11名の派遣者で検査・診療活動及び衛生教育等を実施した。

(1)現地での活動
 四川省では今年度から、四川省眉山県金風郷(晋風郷)※1の住民に対する診療を行っている。これまで何回も報告しているように、寄生虫疾患の対策事業は1年・1回限りで成果が現れるものではなく最低3年間は事業を継続し、事業活動項目である毎年の衛生教育によって住民、特に学童の衛生意識が高まりその結果少しずつ効果が現れ、満足し得る最終結果が出るのはWTO加盟による経済状況の発展は大きいものの沿海部と内陸部の経済格差の拡大という中国の現状から今後10年以上後のことと思われる。従って、最低3年は同じ感染地域で事業を継続することが望ましいが、諸事情を考え2年の継続を最低必須条件として今回の地域で開始している。
 ※1 金風郷と晋風郷は同じ地域である。書き方が異なることは中国ではよくあるらしい。Jinfeng と表記しても中国語の場合、「金」と「晋」が同じ発音になることから起こるとのこと.

 診療内容は、前年同様便検査による虫卵検査、超音波検査による肝の形態変化診断(住血吸虫症独特の所見をとらえる、併せて住血吸虫症に合併率の高い肝臓癌等の画像診断を行う)、血液検査(住血吸虫抗原による免疫学的診断)、周辺のクリーク・川や水田の水でのセルカリア(住血吸虫幼虫)の状況検査(検出、感染濃度の測定)を行い、総合的に感染とその程度を把握し、その後の治療に反映させていく、というこれまで通りの方針で実施している。四川省眉山県晋風郷(=金風郷)での対象住民は約8,000名中の約1,000名である。四川省の場合、四川省政府の方針で対象となる感染地域の中から無作為に住民を抽出(実際は2−3の集落を選ぶ:各集落の人口構成・男女比はほぼ同じ)し、集落の感染率・罹患率を検査結果から割り出してその地域の治療方法を決定する。治療(投薬)の回数、量、対象者などを決定し、今年の感染時期を前に治療を行い、予防薬の投与まで実施する(感染時期は6月から9月頃が主となる)。
 現場での業務は、『@日本側専門家・スタッフによって、便検査のうち新方式の標本作製と現場での検鏡作業、及びこの新方式の現地スタッフへの実地指導・討論の実施、A中国側カウンターパート専門家はそれぞれの専門領域で診察(問診)、便検査(従来の加藤-Katz法)、超音波検査、血液検査等を行うが、この人件費の一部は配分金から支出されている、B感染地域の地方スタッフは、住民の持ってきた便の容器から取り出して標本作製の準備を行う、標本作製(加藤-Katz法)、その容器の洗浄等後処理を行う、検診場所の準備や手伝い、実際の診断(特に便検査)、血液検査の実施(採血)など、現地の専門家と同様の業務を実施(各検査・診断等を状況を見ながらそれぞれのスタッフが効率良く適時分担して業務を実施)するが、この人件費の一部も配分金から支出されている、C日本側スタッフと中国側スタッフと協同で衛生教育の準備を行い、学校での教育はポスター等による授業は現地専門家が、人形劇等による衛生教育は日本側が準備した器材を用いて日本側スタッフがこれを実施』、という内容である。具体的には、郷内にある小学校兼中学校のほぼ全学年(約500名)を対象に人形劇を使った衛生教育を実施している。人形劇の器材、演出等すべて日本側のスタッフによる手作りで昨年大好評で教育効果も大きかったことから今回も第3段として制作し、過去数年間で実施したように子供たちに分かりやすいように工夫して実施した。

 江西省の感染地域でも四川省と同じ活動を実施した。対象地域は今年度から江西省南昌県玉豊村で新たに実施している。診療の成果は翌年以降に同様の検査を行って評価するため、最低2年間は同じ感染地域で診療活動を行わなければならない。同じ地域で最低2年以上実施する理由は四川省も同じである。診療も同じ内容で、治療に関しては各省政府衛生部(日本政府の厚生労働省に相当)やカウンターパートの財政状況に基づいた治療法があり、その方針で実施する。
 江西省での今回の対象住民は約1,330名で、小学校児童6歳以上80歳未満の住民を対象として検査を行った(15歳以下は学童に分類)。
 衛生教育は四川省同様ASSCAの活動の中では最も重要な項目で、こちらの感染地域ではこれまでの経験から小学校の全校生徒と近隣の幼稚園児も対象に実施している。教室が狭く、勿論体育館などのホールも無いため、教室に入れる人数で数回に分けて四川省同様日本で手作りで制作し演出を行っている人形劇による衛生教育を実施した。
 いずれの感染地域でも、移動日を除き現地に滞在して診療活動や衛生教育を行う日数は正味5日間程度であり、この間にバラバラに自分たちの仕事の合間に検査場に指定された場所にやって来る対象住民の問診、触診、便検査、血液検査、超音波検査を行い、学童以外の住民に対してはその場でのポスターや標本による衛生教育・感染予防に対する知識の再確認を行った(これは主に現地スタッフがこれを担当)。  

(2)検査・診療結果
 2002年になって現地から検査(診療)結果が送られてきたので、そのデータを事前調査(現地側)のデータと比較して評価を行っている。
 @ 江西省
 診療活動を開始する前の年までの現地カウンターパートによる感染率調査での住民の感染率は、1992年から罹患率調査や診療が実施されており、1999年の平均感染率は16.7%、2000年でも16.0%であり江西省の中でも濃厚感染地域の一つと指定されている。また、ヒト以外の重要な感染宿主となり得る水牛の感染率は1999年は3.0%、2000年は4.0%であった。
 2001年の住民診療の結果で便検査について、検鏡しえた680名(成人男性368名、成人女性312名[内、学童は172名])の感染率は28.53%という結果で、前年度までの感染率よりも高い結果になっていた。内訳では、成人男性31.25%、成人女性25.32%、学童で41%という高い数値になっている。便検査で陽性ということはその時点で感染している(活動性)ということを意味し、治療を行わなければ申請書に記載した住血吸虫症の経過をたどり死につながることも有りうる。
 一方、今までの罹患率を示す超音波検査(肝腫大や脾腫は活動性肝障害の所見の一つ)の結果では、検査を完了できた725名中50名にGrade 氓ゥら。の形態的変化を示す所見が得られている。肝腫大と脾腫についてはそれぞれ50%と41%という高い割合の有所見率となってる。超音波検査でのGrade と。は濃厚感染と何回も繰り返して感染していることを示唆しており、この患者の便中の虫卵がライフサイクルの中で他の住民の感染源となりうるため、治療と同時に衛生教育の重要性を改めて認識できる。超音波検査の結果は四川省でも同じ評価であるが、後述している通り四川省の場合は女性や学童の所見率が高いのが山間部感染地域の特徴であり問題でもある。

     

       超音波検査(提供した機器を使用)   便検査(壁に穴が!?)   衛生教育(小学校)

衛生教育授業の後、鉛筆や消しゴムなどの文房具を渡す


 江西省の診療結果について住民約1,300名を対象として診療を行ったが、診療結果として評価されてのは数字の上ではその約半数強の住民となっている。その原因は標本作成時の不備による脱落とすべての検査を全員に行えず、結果的に一部は便検査を受けたが超音波検査を受けていない、あるいはその逆の状況、また、超音波検査は受けずに血液検査(免疫学的寄生虫抗体検査)を受けている等、住民の対応状況による。四川省の様に始めから無作為抽出でその感染地域の感染率を割りだして治療に反映させようとしているのではない。
 A 四川省
 四川省では眉山県金風郷(a晋風郷四川省成都から約140km南方に位置)の約8,000名が対象で、その中の6歳から14歳までの学童312名と成人住民652名の計964名は超音波検査と便検査の対象とする。血液検査と治療は全住民が対象となるが、血液検査が実施できたのは1,048名であった。衛生教育はこれら検査受診者を含む約1,000名の地域住民を対象に実施している。便検査や超音波検査は統計的手法によるサンプリングで全体の感染率や罹患率を割り出し治療薬投与の対象としている。今回約1,000名がその対象となった。今回の活動の前の年である2000年の便検査による虫卵陽性率は全体平均で約30%であった。今回の検査結果は下記の表が示す通りで、便検査による虫卵陽性者は20.23%(男性19.8%、女性20.68%、さらに成人23.16%、学童14.1%)であった。
 衛生教育に関しては、今年度は約200人の住民と364人の学童に住血吸虫症についての知識、予防方法等を尋ねるアンケートを実施し、全住民(成人・学童)の1,000人以上を対象として衛生教育を行った。
 今年度の診療結果でも全体でまだ20%強の感染率があることが分かり、学童でも14%以上の感染率はかなり大きい数字であった。この地域は揚子江の上流にあたる山村地域で、女性が池やクリークで炊事、洗濯等を行い、学童はこのような場所で遊ぶなど、江西省の湖川地域と異なって男性より女性や学童の感染率が高い特徴が有り、結果は今年度もその傾向があったことを示している。

(3)診療(検査)結果に基づく投薬治療と衛生教育の継続
 治療は診療結果に基づいて現地スタッフがこれを実施し、成績を次の年(今年)の診療活動で確認・評価し、この地域での住血吸虫症撲滅対策継続に反映していく。
 四川省の場合、診療結果に示されるように女性や学童の感染率が高い傾向に有り、特に継続的かつ有効な衛生教育が重要視される。今後の住血吸虫対策事業の重要事項である。ASSCAの援助活動の中では、江西省、四川省とも学童における感染率の目標は5%以下、成人でも10%以下の継続と、現地住民の自己努力によってその感染率を徐々に改善させていくことで、最低でも維持し続けて増悪していかないこととしている。

  
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