1月から5月はスギ・ヒノキによる花粉症の季節です。ヨモギ・ブタクサ・カモガヤ等、また、ハウスダスト・カビ・ダニ、動物の毛等によるアレルギー性鼻炎(喘息や皮膚アレルギーもあります)を入れると1年中花粉症(アレルギー性疾患)の季節と言っても過言ではありません。

1.花粉症とは
2.アレルギー性鼻炎・花粉症の診断
3.アレルギー性鼻炎・花粉症の治療
4.予防方法


花粉症とは(アレルギー性鼻炎・結膜炎・皮膚アレルギー・喘息等):
アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎を起こす疾患群で、花粉によって引き起こされるアレルギー症状を呈してきます。花粉症の原因にはこれからの季節での主原因となるスギ・ヒノキ以外に、カモガヤセイタカアワダチソウヨモギブタクサその他イネ科の植物などがあり、アレルギー性鼻炎・喘息(アレルギー性気管支炎・咳喘息《CVA = Cough Variant Asthma》と言われる疾患群)やジンマシンには、ハウスダストダニカビ動物(犬・猫、ハムスターなど)の毛(フケ)など多くの原因があります。花粉症ではくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状、また、眼のかゆみ、流涙などのアレルギー性結膜炎の症状がみられます。我が国で最も多いのは、地域差はありますが、春先にみられるスギ花粉症といわれています。花粉症にはその原因となる花粉によって季節性がありますが、アレルギー性鼻炎となると例えばハウスダストなどが原因であれば1年中みられることもあります。喘息も同様ですが、喘息の場合は気温の変化でも発症することがあります。
アレルギーによって鼻汁やくしゃみ以外にも異常に続く咳やのどの違和感などの症状が起こることがあり、
アレルギー性気管支炎や喘息様気管支炎あるいは咳喘息(CVA)と呼ばれています。アレルギーが関与しているため、治療は下記花粉症・アレルギー性鼻炎の治療と同様です。

アレルギー性鼻炎・花粉症の診断:
(1)Ig-E抗体を調べる検査(免疫学的検査)
 花粉症の原因となっている花粉の種類を確かめるには、これに特異的に反応するIg-E抗体(免疫検査)を調べることによって分かります。
1.皮内テスト・皮膚スクラッチテスト
 患者さんの皮膚(皮内)に抗原を注射して生じる膨疹、紅斑等のアレルギー反応で判定する方法(皮内テスト)です。またこれを簡素にした引っかいた皮膚に抗原を滴下するスクラッチテストと呼ばれる検査があります。この2つをまとめてアレルギーの皮膚反応と呼びます。その場で結果が出て患者さんには非常にわかりやすい検査ですが、全ての施設でできるものではありません。
2.その他(血液検査による方法)
 血清中の微量なIg-E抗体を免疫血清学的方法で検査するものです。この方法は現在広く行われており、CAP‐RAST法、MAST法、FAST法、AlaSTAT法、ルミワルド法などがあります。当クリニックでも、スギ・ヒノキ以外に可能性のある抗原を調べる検査を実施しておりますが、保険適応の問題で数十種類ある中のいくつかを組み合わせて調べるようにしています。
(2)その他の検査

1.鼻の検査
 抗原に特異的なIg-E抗体確認の検査以外にも鼻汁中の好酸球(白血球の一種でアレルギーに関与している成分)を調べることも有用です。また、鼻腔内に濾紙につけた抗原を入れて鼻アレルギーの症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉)が5分間で起こるかどうか確認する鼻誘発検査もありますが、鼻粘膜に直接濾紙をのせますので耳鼻科の専門医によって実施されています。
2.眼の検査
 眼局所のアレルギー検査:
 アレルギー反応に関与する好酸球の検出や慢性的なアレルギー反応において出現するリンパ球などを顕微鏡下で観察します。

 点眼誘発試験:
 簡便法では、スクラッチテスト用抗原(アレルゲンエキス)を希釈して結膜嚢内に点眼し、5〜10分で痒みが出現するか、又は、点眼15〜30分後に結膜分泌物内に好酸球が存在しているかで診断を行います。

このページのTOPへ

アレルギー性鼻炎・花粉症の治療:
花粉症の治療はほかのアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎の治療と同じですが、治療方法には現在の症状を軽減する対症療法と根本的に治す根治療法の二つがあります。
 (1)対症療法:点眼、点鼻薬などによる局所療法と内服薬などによる全身療法
 (2)根治療法:原因抗原(花粉など)の除去と減感作療法(抗原特異的免疫療法)
(1)対症療法
対症療法として、抗ヒスタミン薬(第1世代、第2世代)、化学伝達物質遊離抑制薬(抗アレルギー薬)、Th2サイトカイン阻害薬の内服や点鼻、点眼、そして局所ステロイド薬の点鼻、点眼を必要に応じて組み合わせて行います。

 初期療法:花粉の飛散時期より早めに薬を服用する治療で効果が期待できます。
第2世代抗ヒスタミン薬、化学伝達物質遊離抑制薬、Th2サイトカイン阻害薬の花粉症に対する使用方法として花粉飛散開始2〜4週間ほど前より投与を始める初期療法(季節前投与法、予防的治療)が一般的であり、季節が始まってから服用を開始するより効果が高いことが分かっています。これらの薬品には即効性が乏しいものが多くあることにもよります。

左図

スギ花粉飛散量と症状の変化を初期治療実施例と行わなかった例とで比較したグラフ(大日本製薬株式会社パンフレットより転載)


色々ある治療薬の特徴と使い分け:医療機関や薬局で尋ねたら説明してもらえます
1.抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、反応の起こる部位などのヒスタミン受容体に前もって結合することで、アレルギー反応が起ってアレルギー反応の元となるヒスタミンが出されてもその作用を抑えるものです。
抗ヒスタミン薬は鎮静作用があるために眠気や全身のだるさが出ることがあります(個人差が大きい)。
第1世代と第2世代があり、第1世代では効果の出るのは早いけれどより副作用が出やすいし、第2世代はこれと比べて副作用は出にくいけれど効果の出るのが少し遅くなるなど一長一短の特徴があります。
くしゃみ、鼻汁型では効果が高く、花粉症の患者さんではどの薬剤でも単独で約70%の効果が報告されています。
2.化学伝達物質遊離抑制薬
化学伝達物質遊離抑制薬は、アレルギー反応に関わる肥満細胞を安定化させ、ヒスタミンをはじめとする化学伝達物質が細胞の外に出ないようにさせる薬です。
鎮静作用がないため眠気の副作用はありませんが、胃腸障害が副作用としてみられることがあります。花粉症のピークの時には、第2世代抗ヒスタミン薬より症状が出やすい欠点があります(効果は約60%程度と報告されています)が、眠気がないため初期治療には適しています。
3.ロイコトリエン受容体拮抗剤
鼻粘膜の血管透過性亢進、血管拡張、鼻粘膜透過性亢進を起こすロイコトリエン受容体の働きを阻害し鼻閉・鼻汁・くしゃみ、特に鼻閉に効果があります。さらに、ロイコトリエンは気管支の気道炎症、気道収縮、気道過敏性を引き起こして気管支喘息を発症させる作用があり、ロイコトリエン受容体拮抗薬はこの働きも阻害するため気管支喘息の治療薬としても使われています。鼻閉型アレルギー性鼻炎の中等症・重症の治療薬として適していますが即効性に乏しいのが欠点の一つです。
4.Th2サイトカイン阻害薬
Th2サイトカイン阻害薬は、アレルギーで反応する肥満細胞を調節するリンパ球からでるサイトカインを制限する薬で、肥満細胞やヒスタミンに対する作用はありません。この薬剤も10%前後の胃腸障害が副作用としてみられます。
即効性がないため症状が出現してからでは使いづらい薬剤ですが、初期治療には化学伝達物質遊離抑制薬と同じ理由により適した薬剤です。
5.局所ステロイド薬

この薬剤は、くしゃみ・鼻汁・鼻閉すべてに効果が認められ、花粉症の時期には初期治療の経口薬と組み合わされることが多くなります。ステロイドとしては血液中に入らないため副作用は極少なくなっています。
6.抗コリン薬

抗コリン薬は、副交感神経の神経伝達物質受容体をブロックする薬剤で、鼻汁を特異的に抑える働きが強く鼻汁に対する効果は約80%と高いものがありますが鼻閉に対しては全く効果はありません。
副作用としては、口やのどが乾く、前立腺肥大では排尿障害が起きやすい、緑内障では病気を悪化させる、などの可能性があるため病気によっては使えません。
7.血管収縮薬

血管収縮薬は、交感神経を刺激し血管の拡張を押さえるため鼻閉に効果的です。抗コリン薬とは逆にくしゃみ、鼻汁には全く効果がありません。使いすぎるとかえって鼻閉がひどくなることがあり、頓用にして回数を少なくすることが必要です。

(2)根治療法
1.減感作療法
根治療法としては、原因花粉を避けたり完全除去することが理想ですが、現実にはほとんど不可能です。このため特に症状の重い方には減感作療法が適応となります。減感作療法は抗原特異的な免疫療法とも呼ばれ、花粉の抽出液を少しずつ濃度を上げ注射してからだを花粉に慣らす(花粉に対して防御する免疫を獲得させる)ようにする治療法です。実際の方法は、花粉症の季節3か月前からはじめ、2年以上続けることが必要です。
治療を受けた患者さんからの回答では、約60%の方に効果が持続しているとの報告もありますが、逆に効果が無かった例もあるようです。また、注射を続けるため途中で脱落して効果の発現が見られないこともあるため事前の説明を良く受け、さらに副作用(過剰反応によるジンマシン、ショック症状、喘息増悪など)についても承諾した上で根気よく続けることが重要です。
2.免疫療法
新しい治療法である免疫療法として現在以下のようなものがあります。
@ 他の物質をつけて修飾された抗原による免疫療法
 この方法により、抗原物質は肥満細胞と結合しづらくなりより濃度の濃い抗原の注射が可能となります。この結果、減感作療法の効果がより上がることが期待されます。
A 注射ではない新しい抗原の導入方法(経口、舌下、点鼻)
 注射ではないため家庭でできる減感作療法です。この方法は欧米では既に行われており、日本での一般的な方法の開発が望まれております。
B Tリンパ球のみが反応するペプチド免疫療法
 主要抗原の一部に対してTリンパ球が反応する部分のペプチドと呼ばれる蛋白の断片を減感作療法のように身体に入れていく治療法です。スギに対しては2種類の合成されたペプチドが開発されており、現在、動物実験中です。
C 抗原の一部を体内で発現させる遺伝子免疫療法
 抗原の主要抗原の蛋白を作る遺伝子を筋肉の中に注入し、そこで主要抗原の蛋白を作れるようにする治療法です。主要抗原が体の中で作られることにより外から入ってくる主要抗原に対し抗体を作らせなくさせる方法であり、動物では効果があることが分かっています。
D アレルギー反応中の物質をブロックする抗体(抗Ig-E療法・抗サイトカイン療法)
 抗Ig-E療法は、Ig-Eに対する抗体が感作されることにより作られたIg-Eに結合することにより、Ig-Eの働きを押さえ込んでしまう治療法です。これは既にアメリカでは臨床試験が終了しています。抗サイトカイン療法は、アレルギー反応のキーポイントになるサイトカインをIg-Eの場合と同じ要領で押さえ込んでしまう治療法です。

このページのTOPへ

花粉症の予防方法:
予防法は治療と同じで対症療法と根治療法の二つに大別されます。第2世代抗ヒスタミン薬、化学伝達物質遊離抑制薬、Th2サイトカイン阻害薬を花粉症の季節の前から予防的に服用し始める初期療法で花粉症の治療期間も短くなります。これは完全な予防にはなりませんが、症状が出てから治療を始めるより効果的であることが報告されています。

また、花粉症の予防、治療および花粉回避のためにスギ花粉などで行われている花粉飛散開始予測日を含めた
花粉予報(福岡県)飛散状況(キッセイ薬品ホームページ)が参考となります。

具体的な予防対策
1.メガネ
 着用に違和感のない花粉症用メガネも販売されていますが、通常のメガネ使用だけでもメガネを使用していない時より、眼に入る花粉量は半分以下になります。花粉症用のメガネは、花粉が眼に侵入する花粉をより抑え、通常の約10‐20%にし、症状の発現を抑えるとの報告があります。花粉の季節にはコンタクトレンズ使用の方は花粉がレンズと結膜の間で擦れることもあり、メガネに変えた方が良いでしょう。
2.マスク
 マスクの着用も有用で、通常のものに湿ったガーゼを挟み込むだけでも効果があります。市販されている花粉症用のマスクでは厚みが強くかえって息苦しい感じがすることもあるようです。実験的には、通常のマスクでは鼻に入る花粉数はマスクをしないときの約1/3になり、花粉症用のマスクでは約1/5になるとの報告があります。
3.衣類
 羊毛製の衣類は花粉が付着しやすく、花粉を屋内などに持ち込みやすいことも分かっていますので、服装にも気をつけることが必要です。待合室で新たな患者さんが入ってきてから鼻がムズムズしてきたという人もいます!
4.洗顔
 眼や鼻を洗うと、花粉症の症状が軽くなることがあります。しかし、時には眼や鼻のまわりについた花粉がそれぞれ侵入し、かえって症状が悪くなる場合があり、また、眼にも鼻にも水道水で洗うと粘膜を弱めることがありますので、注意が必要です。症状がひどくなる場合があれば、専門医に相談して下さい。なお、もし洗うのであれば、生理食塩水と呼ばれる0.4%の食塩を溶かした蒸留水を使用することが勧められます。
5.その他
 直接の予防ではありませんが、花粉飛散の季節の前に風邪を引くと粘膜の上皮が障害され、花粉症のときに症状がひどくなることがありますので、風邪に注意することも必要です。このため、規則正しい生活が必要で、鼻閉を悪くする可能性のあるお酒の飲み過ぎなどもよくありません。マインフルエンザの注意と同じ

※上記情報は環境省Homepageの花粉症保健指導マニュアルを参照しています

このページのTOPへ

お知らせのページTOPへ