新型インフルエンザ:現在は新型という呼び方は行っていません

1.概要と経緯
2.過去の状況
一昨年のデータですが、8月のインフルエンザ定点当たりの患者数が1.69を超えて流行期に入り(定点当たりの患者数が1を超えてから、8週間前後で流行のピークを迎えるのが一般的なパターン)、その大半が新型インフルエンザウイルスAH1pdmによると推定されています。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター・センター長の田代眞人氏は2009年プライマリ・ケア関連学会連合学術会議のシンポジウム「地域における新型インフルエンザ対策を考える」で、「8月中旬で新型インフルエンザの感染者数は5、000人を超えたが、まだ季節性インフルエンザの流行規模に達しておらずこれから本格的な流行が始まる」、とコメントされています。その理由として、「ヒトで流行を繰り返すと、遺伝子の突然変異によって、(E627Kという部分の)アミノ酸置換が起こり、ウイルス増殖に至適な温度がヒトの体温に下がり、完全なヒト型ウイルスに変化する」と田代氏は述べておられます。現在流行中の新型インフルエンザウイルスの「E627K」ではこの変異が起きておらず、まだトリ由来で、この変異により、ヒトで流行しやすいタイプに変わるとさらに大きな流行となる「第2波」の到来になると推測されます。さらに、田代氏は専門家として、「現時点では比較的病原性が低いものの、決して侮ってはいけない。これから本格的な第1波が予想されるほか、完全なヒト型ウイルスに変異し、ヒトでの伝播効率と病原性が増強する可能性がある」、「強毒型の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)は、今の新型インフルエンザ(H1N1)の影響を受けることなく、独立して流行が続いている。H1N1H5N1が同時期に流行すると、ウイルスの交雑が起き、強毒型ヒトH5N1が出現する危険もある」と、専門家としてコメントされています。マスクや医薬品などの備蓄を新型インフルエンザ(H1N1)で使い切ってしまうと、H5N1が流行した際に、肝心の備蓄がなくなってしまう事態も想定できます。ウイルスの変異や流行動向の推測は難しいところですが、想定し得るリスクを評価し、対策を講じることが必要というのが田代氏の主張です。

政府の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会委員長で、自治医科大学教授の尾身氏は、「重症化・死亡例の軽減」のためワクチン接種の対象者として、(1)基礎疾患を持つハイリスク者、(2)新型インフルエンザ感染者と接触する医療関係者、(3)6ヶ月未満の乳幼児のCare giver(親など)、(4)妊婦、などを挙げています。「学童期の子供についても、基礎疾患がなくても重症化している例があるので、どう扱うかが課題。また、妊婦は季節性ワクチンは接種していないので、新型インフルエンザのワクチン接種は、これまでの方針を大きく転換することになる」と尾身氏。優先順位の決定にはまだ議論すべき事項が多々あります。
6歳以下の小児ではインフルエンザ脳症など重症化する可能性があり予防なども含め小児科学会は診療体制の整備に着手しています。小児でのインフルエンザ感染の特徴として、症状が急激に変化し、高熱の後、突然、けいれんが続いたり、意味不明の言動や意識障害を起こす可能性が高い。体内のウイルスへの免疫反応が激しすぎて脳が腫れたり、血管や臓器が傷ついて発症するとみられています。一昨年の小児の脳症例は7例報告されています。厚生労働省研究班代表の森島恒雄・岡山大教授(小児感染症学)によると、例年の患者は年間約100人で、約25%に脳性麻痺などの後遺症が残り、死亡率は10%弱だと報告されています。発熱やせきなどのインフルエンザ症状に加え、脳症を疑う症状(呼びかけに答えないなどの意識レベルの低下、けいれんが続いたり、けいれん後の意識障害、意味不明の言動など)があれば小児科などの医療機関を早く受診してほしい、と小児科学会は保護者らに注意を呼びかけています。一部の強い解熱剤は脳症を重症化させる要因になることがありますので自宅の置き薬を勝手に服用したりせず、必ずかかりつけの医療機関に相談するようして下さい(アセトアミノフェン:カロナールやアンヒバ座薬など、は安全と言われていますがやはり医療機関に問い合わせるようにして下さい)。
一方、米国CDC(疾病対策センター)の報告では、8月上旬までに米国では477人が新型インフルエンザで死亡しこのうち36人が18歳未満だったとのことです。さらに、この36人を詳しく調べると、24人が喘息などの基礎疾患があるか、脳性マヒなどの障害を抱えていたとのことです。年齢別では8割に当たる29人が5歳から17歳で、死亡例の半数が5歳未満の季節性インフルエンザとは違うと報告しています。基礎疾患がない小児で重症化するのは、インフルエンザと同時に別の細菌に感染した場合が多く、CDCは、こうした別の細菌に感染した小児もハイリスク群として対処するよう求めているとのことです。

感染予防の原則が以下に示されています;
各個人:
 かからないのが一番、人にうつさない注意、従って、うがい・手洗いの徹底、感染した人や症状がある人はマスクの着用
発熱した人:
 軽症→外出自粛(9日間)、ドライブスルー方式の利用、公民館等の活用(専用外来)、電話診療で薬局での薬の受け取り
 重症→入院も検討
 糖尿病や呼吸器疾患などの基礎疾患がある人→発熱があればすぐ受診
医療関係者:
 基礎疾患で発熱し、新型インフルエンザが疑われる場合→検査陰性でも治療開始
 病床の確保、外来におけるトリアージ
 最悪の場合→日常診療の優先順位の検討(受診者の理解と協力が必要・・)
政府の方針の決定・実施:
 ワクチン確保→優先順位決定、費用の負担、季節性ワクチンとの関係(比率など)
 クラスターサーベイランスから重症化サーベイランスへ、Focusの移動
 シナリオ別のガイドラインの作成(タミフルの予防投与など、タミフルなど必要量の確保、備蓄の放出など)
 速やかつ正確な情報提供
地方自治体:
 医療体制整備の連携の要となること→福岡の場合は最寄りの保健所等
マスコミ:
 危機を煽るような報道を自粛し正確な情報提供

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