最近の感染症としての発熱性疾患(咽頭・喉頭炎, 気管支炎, 嘔吐・下痢症など)

平成15年のインフルエンザはA型・B型とも収束しました。今回のインフルエンザは多くの学級閉鎖を引き起こし、肺炎や脳症の合併で亡くなった方が出るなど大変な流行となりました。その一方で、5月頃よりあまり風邪症状がなく高熱(38-39度)のみが続く(朝は解熱し、夕方以降また高くなる傾向があります)ウイルス感染と思われる感染症が見られるようになりました。ウイルスのみではなく細菌による混合感染のことも多いようです。一般的な風邪(RSウイルス、ライノウイルス、アデノウイルスなど)や冬場に多くなるロタウイルスなどによる嘔吐・下痢症などの予防のためにもうがい・手洗いは続けましょう。また、2003年はSARSが世界的に流行し2004年は沈静化しているように見えますが、夏の間眠っていたSARSウイルスが冬に強力になって再流行を起こしてくる危険性は充分考えられます。SARSとインフルエンザはその初期症状が類似しており診断に苦慮することが考えられます。インフルエンザについては、流行の前に予防接種を受ける、また、流行した時はうがい・手洗いなどよりいっそうの予防策を講じるようにしましょう。
今の時期、インフルエンザのようにのどが痛くなって38度以上の熱が出たり、嘔吐・下痢を起こす「嘔吐・下痢症」がよく見られます。乳幼児の場合、冬から春先にかけてはロタウイルスによるものが多く、脱水症になりやすい疾患です。最近は重症型のロタウイルス感染が多く見られる傾向にあるようです。さらにSRSV小型球形ウイルス)による嘔吐・下痢・高熱を症状とする感染症は学童以上、大人の方も罹りますので予防を行って注意して下さい。
その他、咽頭痛・咳・鼻汁・頭痛・全身倦怠感など一般的に
風邪と言われる状況でウイルス感染症の病原ウイルスとしては多数の種類があり,ライノウイルスSARSの原因として大変話題になったコロナウイルスパラインフルエンザウイルスおよびRSウイルスなどがあります。これらのウイルスが病原となる頻度は季節によっても異なる傾向があり,一般的に寒い季節ではインフルエンザウイルス,RSウイルスが多く,夏期にはアデノウイルスコクサッキーウイルスエコーウイルスなど、秋から春はライノウイルスが主体と考えられます。
成人では多くの場合ライノウイルス,小児ではRSウイルス,アデノウイルス,パラインフルエンザウイルスが主体となります。その中でアデノウイルスは、インフルエンザとよく似た症状で高熱を出してくる傾向があります。これらのウイルス感染では主症状は風邪様症状ですが、咽頭扁桃炎,結膜炎(アデノウイルスやコクサッキーA24などによる流行性角結膜炎),肺炎(インフルエンザウイルスやアデノウイルスなど),胃腸炎(ロタウイルス、コロナウイルスなど),稀に髄膜炎などを起こしてきてしばしば重症となることがありますので注意が必要です。

急性咽頭・喉頭炎
咽頭の発赤・浮腫や扁桃腫大を呈してきます。急性扁桃炎はアンギーナともいわれ、口蓋扁桃のウイルス、細菌感染によって起こる急性炎症のことです。原因は上記ウイルスが主体で、細菌性のものとしてはA群β溶連菌が重要であり、そのほか黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌などによるものがあります。
1歳以下は少なく、4〜7歳にピークがありますがそれ以降でも見られます。溶連菌による場合はウイルス性に比べ一般に急激に発症し高熱を伴うことが多いのが特徴です。4歳以上では急性糸球体腎炎やリウマチ熱の発生予防が重要で、このため咽頭培養やA群溶連菌迅速抗原検査を行うことが原則です。またA群以外の溶連菌でも急性糸球体腎炎を起こすことがあり、中耳炎や慢性気道感染症、皮膚感染症(膿痂疹・蜂巣炎など)、猩紅熱などとの関連がありますので正確な診断と治療が重要です。

急性気管支炎
 上記ウイルスで主に呼吸系の症状を呈するRSウイルス,アデノウイルス,パラインフルエンザウイルス,麻疹ウイルスなどによるウイルス性上気道炎が先行し,二次的細菌性感染症の像を呈してきます。この時の原因になる菌はインフルエンザ桿菌(インフルエンザウイルスとは違います)・百日咳菌・マイコプラズマ・肺炎双球菌などがあります。このような細菌性気管支炎から肺炎に移行することもありますが、乳幼児の場合のウイルス性肺炎の原因ではRSウイルスが約半数を占めています。

喘息性気管支炎(CVA:Cough Variant Asthma、アレルギー性気管支炎と同じ概念)
 1‐2歳の乳幼児に多く、上気道感染かぜなどを併発するとすぐゼーゼー繰り返し、咳嗽は軽度で反復性喘鳴喘息様症状を呈し、呼吸困難はほとんどみない特有な疾患の総称です。予後は良好で学童期のころ自然に軽快するものが大部分ですが、気道過敏性があり10‐20%近くが喘息に移行すると言われています。全身状態は比較的よく元気で機嫌もよい場合が多く、胸部X線・血液一般・生化学検査ではほとんど異常は見られません。臨床症状から診断は容易ですが、乳幼児の喘鳴をきたす他の疾患との鑑別が重要です(喘息、気道異物、毛細気管支炎、喉頭・気管軟化症など)のでかかりつけ医にみせるようにしましょう。

急性下痢症(急性腸炎)
乳幼児の場合の原因は、冬季はロタウイルスによるものが最多で、夏季はカンピロバクター・サルモネラ・大腸菌などの細菌性の下痢が特に離乳食を食べている乳児に出現することがありますが、年長児に比べると多くはありません。感染性下痢以外に、食物アレルギー・食事過誤・他臓器の感染(中耳炎、腎盂腎炎など)に伴う下痢もあり注意が必要ですので診察を受けるようにして下さい。
成人の場合は、小児同様ロタウイルスや小型球形ウイルス(SRSV)もありますが、カンピロバクター、細菌性腸炎なども見られます。
2003年8月終わり頃から小児においてO-157の散発的な流行がありました(福岡県)。季節的にも
感染性腸炎(食中毒)には充分な注意が必要です。症状があるときは早めにかかりつけ医に診てもらうようにしましょう。

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診断
臨床症状に加えて、白血球やCRP(炎症反応)、胸部X線写真、アデノウイルスやロタウイルスなどの血液による抗体検査、溶連菌感染の場合は咽頭から直接菌の検出を行う、マイコプラズマの場合は血清検査で診断が可能です。細菌感染が疑われ、菌の同定がつかない場合は便検査や動脈血による培養検査ができます。特殊な腸炎では内視鏡検査があります。

治療と予防
ウイルス性疾患の場合は原則的に抗生物質は効果がありません。咽頭痛を静めたり咳を静める、熱を下げる、あるいは食事を摂って回復させるに十分な栄養と体力・免疫力をつける対症療法になります。細菌性感染症が合併した場合は原因菌に応じて抗生物質を用いますが、副作用も考慮して長々と同じ薬を使うべきではありません。症状によって処方も変更していきますのでかかりつけの医師とともにがんばりましょう。
咳がひどく、特に痰が切れにくい場合などは吸入療法が効果的です。自宅でも吸入器は使えますが、使う薬品など医療機関で相談してみて下さい。
嘔吐・下痢がひどく、食事も摂れないような場合は脱水症に陥っていることが多いのでこの時は点滴が効果的です。特に、乳幼児の場合は時間はかかりますがこの処置は大切です。乳幼児である程度食事が入る場合は、湯ざまし,番茶,野菜スープ,健康飲料などを少量,頻回に与え、脱水の進行を予防することが必要です。母乳をあげている時はそのまま与えますが、人工粉乳の場合は2/3〜3/4に希釈して与える方が良いでしょう。経口補液剤も(ポカリスウェットやアクエリアス、あるいは粉末の補液維持液製剤など)有効です。成人の食事も同様で、お粥などの胃腸への負担の少ないものから始め、少しずつ元に戻すようにしましょう。下痢や高熱が続く時にはやはりポカリスウェットやアクエリアスなどの水分補給は大切です。
乳幼児も成人も下痢というのは一種の生体防御反応と思って下さい。強い止瀉薬(下痢止め)を不用意に始めから使うことは避けたほうが良いでしょう。

これらのウイルスが混合感染してくる場合もあり、さらに他の細菌感染が重なってくることもありますので、検査を行って確実な診断のもとで治療を受けるようにして下さい。また、風邪、特にウイルス感染症で大切なのは予防で、体調の悪いときは人込を避ける、マスクをつける、うがい・手洗いの実施などの注意を行うようにして下さい。治療については、対症療法やそれぞれの感染症の原因で少しずつ異なってきますので医療機関で診察を受けるようにして下さい。

さらに、春先から夏、秋口までは食中毒など経口感染症が増えてきますので手洗い等に加えて、食器の消毒、食品の保存、調理などに十分の注意を払いましょう。

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